卒業生インタビュー【加藤智子さん】

今回は、2015年にMIISの翻訳通訳修士課程(MA in Translation and Interpretation)を卒業されたあと、アメリカでご活躍中の加藤智子さんにお話を伺いました。

―はじめに、MIISの修士課程で学ぼうと思ったきっかけを教えていただけますか。

もともと翻訳を志していて、イギリスで文芸翻訳の修士号を取得したあと7年間ほどフリーランスとして翻訳のお仕事をしていました。ただ、イギリスの大学院では理論が中心で具体的な翻訳の訓練はほぼ皆無だったこともあり、どこかでしっかりと翻訳のスキルをつけ直したいという思いがずっとありました。それに加えて、通訳者として活躍している友人の影響もあって、通訳にもずっと憧れのような気持ちを持っていました。

MIISで学ぶことを本気で考え始めたのは、実際に出願を決心する半年ほど前です。MIISについては方々で耳にしてずっと気になっていたのですが、とてもレベルが高く厳しいプログラムという評判だったので、自分にはとうてい無理だろうと最初からほぼ諦めていました。それが、たまたま帰省中に再会した高校時代の恩師と話していた時に、あくまで世間話としてMIISの話題を出したところ、先生に「なんだかすごくその学校に行きたそうに聞こえるけど」とあっさり言われてしまい、そのおかげで自分が自信はなくとも通訳・翻訳を本格的に学びたいと思っていることに気付くことができました。その後すぐ、実際にモントレーを訪れて逐次通訳の授業を見学させていただいて、とにかくここで2年間挑戦してみようと決心しました。

―卒業後は、主にどのようなお仕事をされていらっしゃいますか。

卒業後は、まず3ヶ月間、スイスのジュネーブにある世界知的財産機関(WIPO)で英日翻訳のフェローシップに参加しました。WIPOのフェローシップは通常、他言語から英語への特許翻訳が中心なのですが、私の卒業時はちょうど英日翻訳のプロジェクトが進行中で、運良く機会をつかむことができました。もう一つ運が良かったのは、MIISで一緒に学んだクラスメートが同じ時期に同じプロジェクトに配属されていたことです。信頼する仲間とアイディアを出し合いながら協力して翻訳に当たる喜びは、何物にも代えがたいものでした。日々の仕事の後は、これも同時期にフェローとしてWIPOに滞在していたMIISの後輩も一緒に、湖のほとりでピクニックをしたり、無料のコンサートを聴きに行ったりと、夏のジュネーブを満喫することができました。翻訳者としての経験という意味でも、友人たちとの思い出作りという意味でも、とても良い夏を過ごすことができたと思います。

現在は、シリコンバレーのGoogle本社で翻訳・ローカライゼーション関連のお仕事をしています。国際色豊かな環境で最先端の技術に関わることができ、とても刺激的な毎日です。

このように、今のところ翻訳が中心になっていますが、長期的には翻訳と通訳、両方のお仕事を良いバランスで続けていければ理想だと思っています。

―MIIS在学中、インターンシップなどはされましたか。どんな経験だったか教えてください。

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同時通訳の実習

1年目の夏休みに、日系製薬企業で通訳インターンシップを経験しました。とにかく社内通訳の皆さんの技術の高さに圧倒され、そのお仕事ぶりを見学させていただくだけでもとても有意義な体験でした。通訳インターンとして定例の電話会議での逐次通訳を担当したのですが、最初は専門用語や社内用語の羅列に戸惑うばかりだったのが、MIIS卒業生でもある先輩通訳者の方々をはじめ多くの方に助けていただいて、なんとか最後までやり通すことができました。プロジェクト全体の流れやチームの構成が見えてくるにつれて少しずつ自分の通訳が変わっていくことを実感して、社内通訳の醍醐味を垣間見ることができた気がします。担当の会議以外にも、治験に関する専門的な会議に入らせていただいたり、後半には日本本社から来られていた40人の営業チームの皆さんを前にプレゼンを通訳する機会もいただいて、本番前の緊張や不安に始まり、通訳中の集中した状態の気持ちのよさ、やり終えた後に「ありがとう」と声をかけていただく嬉しさまで、現場でしか体験できない貴重な体験をさせていただくことができました。

―MIIS で学んだことが、いまお仕事にどう活かされているか、お聞かせください。

MIISに来る以前と比べて、仕事に向かう意識が根本的に変わったと感じます。MIISに来る前までは、どこかで翻訳という作業に対して甘さがあったと思います。それが、MIISの先生方の翻訳通訳に対する徹底した客観的な厳しさやプロ意識、そして情熱を目の当たりにして、自分もまだまだ経験が浅いとはいえ翻訳者、通訳者としてお仕事をする以上は同じような覚悟を持って仕事に当たらなくてはと自然に感じるようになりました。これは、現役かつトップクラスの翻訳者、通訳者の方々を教授陣に揃えるMIISだからこそ得られたものであり、一生の宝となる経験だったと思います。

Googleでのお仕事では、特にIT翻訳の授業で学んだことが具体的にたいへん役に立っています。訳出の正確さや読みやすさ、わかりやすさを追求することはもちろん、例えば指定されたスタイルガイドに沿って翻訳するような場合に、細かいところまで限りなく100%に近づけられるように最大限の注意を払う、という基本的な姿勢を、日々の授業や課題を通してしっかりと身につけることができたと感じます。

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プラクティカムの教授やクラスメートと

―MIIS の学生生活のなかで、一番思い出に残っていることは何ですか。

なんといっても、クラスメートや仲間と過ごした時間です。通訳の授業の準備で毎日カフェテリアで練習したり、つらい時は励ましあったりして、とてもリアルで密な人間関係を築くことができました。入学前のイメージでは、一人孤独に図書館にこもるような勉強を想像していたので、こうして思いがけず大切な財産を得ることができたことをなにより嬉しく思っています。それから、通訳のプラクティカム (実習授業) で、各言語の通訳志望の仲間たちと一緒に練習会を企画したり、時にはリレー通訳という形で一緒に通訳にあたったりしたのも、とてもいい思い出です。いつかまたあの時のみんなで、ブースを超えて一緒に通訳ができたらいいな、と思っています。

―入学希望者の方たちに、特にアドバイスがあればお願いします。

私のように、興味はあるけど自信がなくて出願を迷っている、という方がもしいたら、私を含めた卒業生に連絡を取って話を聞くなり、可能であれば実際に授業を見学するなりしてとにかく行動を起こしてみることをお勧めします。自分に合う世界であれば、必ずピンとくると思います。

MIISでは、技能や知識という意味で多くを学べることはもちろんですが、何より先生方や仲間達など、同じことに情熱を持つ多くの人に出会うことができますし、そのような出会いが不安を乗り越える大きな助けになってくれると思います。まったく自信のなかった私も、いろいろな人との出会いのおかげで、今になって振り返えれば「楽しかった!」という言葉しか出てこないぐらい、最高の2年間を過ごすことができました。前向きな興味を持って足を踏み入れるのであれば、MIISでの時間は必ずや有意義なものになると思います。