卒業生インタビュー【森田系太郎さん】

今回は、2012年に会議通訳修士課程を卒業された、森田系太郎さんにお話を伺いました。

―森田さんはアドバンスエントリー制度を利用してMIISに2年目から入学されましたが、まず、MIISに留学しようと思ったきっかけを教えていただけますか。

MIISには2011年の8月に入学しました。遡ること同年3月、立教大学で博士論文を提出し、9月に博士号取得予定でした。卒業後にそのまま環境社会学者としてアカデミアに残るべきか、それとも新たなキャリアとして関心を抱いていた通訳者になるべきか、岐路に立たされました。“To be or not to be an interpreter”ですね。そして、結局、後者を選択しました。

理由は2つ。1つ目は、もちろん、プロの通訳者になるための訓練を受けたかったことがあります。立教大学には修士・博士課程を通じて6年半在籍しましたが、ともに社会人向けコースで授業が夜間に開講されていたため、昼間はフリーランス翻訳者として働いていました。その際、短期間ですが通訳学校に通っていたこともあり、たまに通訳のご依頼もいただいていました。しかし、付け焼刃では太刀打ちできず。いつか、十分な時間を確保して体系的に通訳訓練を受けてみたいと思っていました。

2つ目は、博士論文を提出した2011年3月に生じた東日本大震災です。当時、私の故郷である仙台に母親が1人で住んでおり、水道・電気・ガス・食糧供給がストップするなかで、母を故郷の鳥取に避難させなければならない状態になりました。このような経験のなかで、「人生一度きり、だから常にやり残したことはないようにすべきだ」「アカデミアはとりあえず経験したから次は通訳を勉強してみたい」という思いが芽生えてきたのです。

「MIIS時代にブースで同時通訳を練習中の筆者」

MIIS時代。ブースで同時通訳を練習中

思い立ったら吉日。早速、通っていた通訳学校「土曜学校」の校長で、元MIIS教員でもある中山貴子先生に相談したところ、MIISを勧められ、すぐに願書を提出。その際にアドバンスエントリー制度という2年次に編入できる制度があることを知り、受験することにしました。受験に当たってはTIコース(Translation & Interpretation[翻訳通訳]コース:逐次通訳と翻訳がコア科目。同時通訳も履修可能)を考えていましたが、当時、日本語学科主任でいらっしゃった武田珂代子先生(現・立教大学教授)にCIコース(Conference Interpreting[会議通訳]コース:同時通訳と逐次通訳がコア科目。翻訳も履修可能)を勧められ、後者で受験することに。予期せぬ航路変更でしたが、結果として合格に至りました。武田先生に勧められて偶然、CIコースに進んだわけですが、そこで同時通訳のスキルを学べたことは現在の職場でとても役立っているので、その偶然は必然だったのかも知れません。ということで、中山先生、武田先生には今でも足を向けて寝ることはできません(!)。

なお、アドバンスエントリー制度については、1年で修了できるため、時間・資金面でメリットがあります。ですが、アメリカ生活に慣れながら、通訳と翻訳を基礎からじっくりと学べる、という点では、2年間かけて修了することにもメリットがあると考えています。

―現在は、どのようなお仕事をされていらっしゃいますか。

アメリカ東海岸の製薬企業で通訳・翻訳の仕事に携わっています。通訳が業務の95%以上を占めており、同時通訳・逐次通訳の両方のスキルが必要とされます。職場では、医薬品開発のための臨床試験に関するトピックのみならず、その前の段階で行われる基礎研究や非臨床試験に関する会議を担当することもあります。また、臨床試験が終了し、当局から承認されるとその製品は市場に出る(「上市」)わけですが、上市後に行われる試験に係る会議や、セールス・マーケティングの会議もあります。他には、薬事や製薬系IT、ファーマコビジランス(PV)、医療機器、人事、法務関連の会議の通訳を担当することもあります。

担当する会議のトピックが多岐にわたるので、とても刺激的な毎日を過ごしています。逆に言えば、日々勉強の毎日です。MIISを卒業したから勉強はオシマイ、という訳ではなかったですね、残念ながら(笑)。半年ほど前、MIIS・1年生の日英通訳の実践練習をお手伝いする目的で、「Becoming the Interpreter」という発表をさせていただきましたが、発表の主旨は「理想の通訳者になるためには、MIISで身に付けたことを土台とし、卒業後も、現場を踏みつつ、努力し学び続ける必要がある」というものでした。

―MIIS で学んだことが、いまお仕事にどう活かされているか、お聞かせください。

逐次通訳については、ノートの取り方を学べたことは大きかったですね。また「ノート取り」と「聞き取り」とのバランス、訳出時のデリバリー(「えー」「あー」といった耳障りなfiller語を減らすなど、クライアントに聞きやすく訳出する等)についても、授業のなかで厳しく指導されました。こういったことは、今の仕事でとても生かされていると感じています。

同時通訳については、ご存知のとおり「聞きながら話す」というアクロバティックな(!)行為ですが、そのスキルを実践的に学ぶことができました。また、文を短く切って訳出する先入れ先出し法(First In First Out;FIFO)法――過剰な使用は聞きづらい――の適切な使用法や、話すスピードが速い話者を攻略する術も教わりました。

上記に加え、ノン・ネイティヴ・スピーカーの「訛り」対策や、授業にゲストを呼んでの実戦形式での練習、また1、2年生合同でのデポ(デポジション;証言録取)通訳の模擬演習なども、総合的には今の仕事に役立っていると思います。加えて、通訳者としての倫理、マナーを学ぶ授業もありましたが、そのなかで「プロの通訳者とは何者か」「プロの通訳者としてどう振舞うべきか」を現場に出る前に考える機会があったのも有難かったですね。

またMIISの2年次では、CIとTIの学生が参加資格を有する「プラクティカム」と呼ばれる通訳演習の授業があり、そこでは他言語学科(中国語・ロシア語・ドイツ語・フランス語・韓国語・スペイン語)の学生と共同で、リレー通訳(例:中国語→英語→日本語)などを経験することができました。ちなみに、プラクティカムを通じて、日本語学科以外の友人ができたことは、一生の財産となっています。今の仕事では出張で国内外に出掛けることも多いのですが、出張先にMIISの友人がいる場合は必ずコンタクトを取り、旧交を温めるようにしているんですよ。

―MIIS の学生生活のなかで、一番思い出に残っていることを教えてください。

このインタビューに登場する皆さんが口を揃えておっしゃるように、やはりクラスメートとの練習でしょうか。授BeachHSR業の時間は限られていますので、やはり学生時代に力を伸ばすためには授業外でのクラスメートとの練習が上達の鍵となります。「サムソン」と呼ばれる食堂は学生の溜まり場にもなっており、どの学科の学生も集まって勉強しているのですが、やはり一番遅くまで残っているのは通翻訳を勉強している学生ではないでしょうか。多分に漏れず、私も夜遅くまでサムソンに残ってクラスメートと練習していました。ちなみに、学期中は授業と練習に追われ、観光地として有名なモントレーを観光する時間はほぼゼロでした。卒業試験が終わったあと、ようやく観光を始めたくらいでした(笑)。

―入学希望者の方たちに、特にアドバイスがあればお願いします。

通翻訳者になりたいと真剣に望まれているのであれば、ぜひMIISの門を叩いてみてください。業界でもMIIS卒業生の評判は非常に高いものですし、MIISを通じてクラスメートのみならず、他言語学科の学生、先輩・後輩たちとのネットワークを築くことができます。また2020年には東京オリンピックが開催されます。それによって通翻訳の需要が高まると考えられているので、今後の成長産業、ということで、キャリア面でもメリットがあると思います。

冒頭でも述べましたが、人生一度きり。“To be or not to be an interpreter/translator”――ハムレット並みに迷っていらっしゃるのであれば、思い切ってMIISでチャレンジしてみませんか?