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在学生インタビュー【ショーン・ケリーさん Boxインターンシップについて】

今回は、2学期終了後の夏休みに、シリコンバレーの会社、Boxにてインターンシップをされたショーン・ケリーさん(翻訳ローカリゼーション管理修士課程2年生)にお話を伺いました。

−本日はお時間をいただきありがとうございます。ショーンさんはこの夏、Boxでインターンをされていましたが、今回のBoxでのインターンシップでは、具体的にどんなお仕事をされていらっしゃったのでしょうか。

Boxでは、ローカリゼーションチームのインターンとして、 Box製のソフトウェアに関する、ほとんどの翻訳プロジェクトの管理を担当していました。Boxはソフトウェアの会社で、ファイル共有や、ファイル上での共同作業を可能にするソフトを開発し、企業に販売しています。

ソフトはアジャイルソフトウェア開発という方法で開発されていて、これは開発されたソフトが継続的にアップデートされていくというものです。ソフトが常にアップデートされるので、ソフトに何か新たな文字列が追加されると、それがBoxの開発した「Mojito(モヒート)」と呼ばれる翻訳管理ソフト上に自動的に集められる仕組みになっています。私はそれを定期的にチェックし、新しい文字列が翻訳されるように手配していました。具体的には、Mojito上で新たな翻訳プロジェクトを立ち上げ、必要な作業を業者に依頼していくというものです。作業を依頼すると、業者からは進捗や遅れなどについて連絡が来るのでその対応をします。Boxでは、翻訳の作業と校正などの作業は別々の業者(LSP[翻訳会社])に依頼していたので、私はその二社それぞれに、週に一度スカイプをして進捗状況や次の作業について確認をしていました。

Boxのインターンは、各自何かのプロジェクトを任されます。プロジェクトは、後にソフトの開発に活かされるためのものです。私も二つのプロジェクトに取り組んでいました。まず一つ目は、ソフトの検索機能を日本語でテストするというものです。日本はBoxにとって非常に大きな市場なのですが、Boxのソフトには日本語での検索機能に、まだいくつかの課題があります。Boxの本社には日本語話者がいないことや、日本支社では他の業務がたくさんあるため、私が日本語で検索機能をテストし、何がうまくいって何がうまくいかないのか、それについて何かパターンはないか、などを調べる作業を担当させてもらいました。

もう一つ私が取り組んでいたのは、ある言語についてのABテストの方法についてです。このABテストは、言語を追加したり、変更を加えたりすることで、Boxのソフトのユーザーの使用体験にどのような影響があるかを確認する作業のことです。うまくテストを行うために何が必要か、様々なことを試しました。

また、ローカリゼーションチームは小さなチームだったので、それ以外にも多くの業務に関わらせてもらうことができました。さらにローカリゼーションチームの所属する、プロダクトチームの定例会議に参加させてもらうこともできました。プロダクトチームの取り組んでいることや、社内で起こっていることをたくさん知る機会となり、とても貴重な経験でした。

ところで、「Mojito(モヒート)」には面白い由来があります。ローカリゼーションチームは以前、モジチーム(Moji team)と呼ばれていました。というのも、ローカリゼーションチームは、たくさんの日本語の文字化けに対応しなければならなかったからです。あるとき、この製品の名前を考えていた開発者の方が、モジ(Moji)はモヒート(Mojito)に似ていると思いついたことから、「Mojito(モヒート)」という名前がつけられることになったそうです。私も実際、インターンシップ中に、モジ(Moji)の意味を聞かれて説明することがよくありました。

−インターンシップでどのような学びがありましたか。

インターンシップ中には、社内の様々な立場の方とのコミュニケーションについて学ぶことができました。ローカリゼーションを担当する私たちのチームは、モノやサービスが自分の母語で提供されている方が使い心地がいいだろう、楽しいだろうと考えるので、あらゆるものを様々な言語に訳したいと考えます。ですが、ローカリゼーションに必要な作業を実行するには、必要なコストや変更について、他の部署の方にきちんと根拠を示して説明する必要があります。

ですので、例えばある言語が追加されたことで、ユーザーがもっとお金を使ってくれるようになった、利用時間が長くなったなどを、示してくれるデータを探さなければなりません。また、どの言語に優先的に対応するかについても、「この言語は、これだけのユーザーがいて、これだけ多くのユーザーに影響するから、ぜひ対応するべきだ」というように言えないといけません。先ほどお話しした日本語の検索機能についてもそうです。日本は大きな市場ですが、もしこれが、もっとユーザー数の少ない他の言語に関わることだったとしたら、私が担当していた作業は必要にならなかったかもしれません。

またエンジニアの方とは、向こうには技術的な面から見て必要だと思うことがある中で、こちらが必要だと思うことをどのようにすればうまく伝えることができるのか、考える必要がありました。様々な立場の方に、ローカリゼーションについて理解してもらうために説明するのは、とても興味深い経験でした。

その一方で、私はイギリス英語版(コンテンツやユーザー・インターフェースなど)の改善にも取り組んでいた関係で、様々な種類の英語についても学びました。アメリカ、カナダ、オーストラリア、イギリスの英語について、何がどのように違うのかなどを、改めていろいろと調べ、学ぶことができたのはおもしろかったです。またBoxでは、英語のように、同じ言語でも地域差があるものは、一定のユーザーがいれば、それぞれに対応することも重視されていました。そのため、それによってどんな効果があるのかを示すデータを探すことにも取り組んでいました。

もう一つ興味深かったのは、翻訳者にはいかに文脈が必要なのか、改めてよく分かったことです。翻訳者の方に依頼するファイルは、表の中に、見出しのように言葉が並んだだけの形式でした。翻訳者の方は、それらが何のためのものか、開発者が書いた説明を確認できるようになっていますが、時々それを見てもよく分からないものも出てきます。そんな時にこの文字列はどこに表示されるのか、この表は何なのか、ここでは何が起こっているのか、など様々な質問を受けました。質問を受けると、それがソフトの中でどこに表示されるのかを調べて説明したり、スクリーンショットを撮って送ったりもしました。複雑すぎて突き止めることが難しい場合には、開発者に問い合わせたりもしました。最終的には、業者の翻訳担当部門の方に対してWebセミナーも行いました。ソフトの中で翻訳される部分がどのように表示されるのかなどを説明し、役に立ったと言ってもらえたのでよかったです。

−MIISで学んだことがインターンシップでどう活かされたか、お聞かせください。

一番大きかったのは、翻訳のプロセスについて把握していたことです。例えば、TEP(Translation, Editing, Proofreading)とは何なのか、それぞれの業者はどんな働きをするのか、どのようなプロセスがあってその中で翻訳はどの段階にくるのか、などです。何が行われているのかすぐに理解できたので、苦労なくすぐに仕事に入っていくことができました。

インターンシップ1日目の職場のデスク

CATツール(翻訳支援ツール)について知識があったことも、とても役立ちました。MIISで学んできたことのおかげで、全体的にあまり混乱することもなかったので、何が行われているのか把握するのに必死になるのではなく、どうすればユーザーのために改善していけるのか、どうすれば行いたい作業を実現できるのか、などに集中することができました。

また、少し意外というか、予想していなかったこともあります。はじめは、業者の方とスカイプをする時のことを考えると、きっと私は向こうの話す内容を分かっていないと思われてしまうのではと、とても緊張していました。ですが、結局心配の必要はなく、実際は業者の方と同じ目線や用語で会話することができていました。これはとても嬉しかったことです。

インターンシップでは、本当に素晴らしいチームで仕事をさせてもらい、とても良い経験をすることができました。私の上司はMIISの卒業生だったのですが、その方のおかげでインターンシップ中には、色々な場面でプレゼンテーションをする機会をいただきました。さらに、11月1日からシリコンバレーで開催されるLocWorldという会議で、エンジニアの方と二人でBoxを代表してプレゼンテーションをさせていただくことになりました。LocWorldでは、スタートアップ企業向けの、ローカリゼーションに関するパネルディスカッションが行われます。そこで私の上司が発表するよう依頼されていたのですが、スケジュールの都合で出席が難しいため、代わりに私に発表しないかと言ってくださったからです。うまくいくことを願っています。

LocWorldでケリーさんは11月1日に発表されるようです。頑張ってください!

*今回のインタビューは英語で行い、翻訳したものを掲載しています。

在学生インタビュー【彦坂メアリーさん グッドマン社インターンシップについて】

今回は、2学期終了後の夏休みに、ダイキン工業株式会社の米国子会社で、住宅用空調大手であるグッドマン社(Goodman Global Group, Inc.)にてインターンシップをされた彦坂メアリーさん(会議通訳修士課程2年生)にお話を伺いました。

―本日はお時間をいただきありがとうございます。彦坂さんは夏休みの間、グッドマン社で2ヶ月間インターンシップをされていましたが、具体的にどんなお仕事をされていらっしゃったのでしょうか。

グッドマン社では、通訳インターンとして働いていました。仕事内容は、大半が通訳で、時間の合間に翻訳もするという感じでした。通訳は、逐次通訳と同時通訳のどちらもする機会があったのですが、具体的には、グッドマン社のアメリカ人社員の方と、日本のダイキン工業からたくさん来られている日本人出向社員の方との間に入って、製造の現場での逐次通訳や月例や週例で行われる会議での同時通訳をさせていただきました。

逐次通訳は、MIISの授業では2〜3分間聞いてメモをとり通訳しますが、それとは違い、1〜2文くらいの短い内容を訳していくという形でした。同時通訳では、インターンなので完全な通訳はできない可能性があるということを伝え、その了承を得た上で、一緒にインターンシップをしていたクラスメイトと、どちらかと言えば少し練習のような形で通訳をさせていただいていました。会議の内容は会社のビジョンや予算のことなど多岐にわたり、同時通訳をするにはとても難しかったのですが、良い経験となりました。

翻訳は、通訳を依頼された会議で使うパワーポイントの資料を会議前に翻訳したり、日本から送られてきたいずれ翻訳が必要になる資料を空いた時間に少しずつ翻訳したりという感じで、内容は製造関係が多かったです。会議に使う資料の翻訳は、事前資料として会議の内容を理解するのにも役立ちました。

―インターンシップでどのような学びがありましたか。

良い意味でも悪い意味でも、MIISで学んだことがすべてじゃないということに気づかされました。MIISの通訳の授業では、2〜3分の長さの通訳が当たり前ですが、スピーカーの話しやすさや通訳を聞く側の聞きやすさを重視して、インターンシップではその長さが1分にも及ばないことがほとんどでした。また、日本側とアメリカ側の間に立ってみて感じたのが、文化や考え方の違いや、コミュニケーションの違いを理解した上で通訳することがとても大切だということです。「言葉の置き換えだけでは通訳は務まらない」ということを身をもって理解し、通訳者に何が期待されているのかについて考え直すきっかけとなりました。通訳する上で一つ一つの言葉がどれほど大事なのか、言葉を巧みに操ることがどれほど難しく、また魅力的であるのかに気がつきました。

また、MIISで勉強している時は、学生として自分がいかに完璧な通訳をするかやいかに間違いをしないようにするかにフォーカスしてしまい、自分本位になりがちです。ですが仕事となると、通訳は自分ではなくて、人と人とのコミュニケーションを図ることにフォーカスしないと、ただの自己満足に終わってしまうと改めて感じました。さらに、学校では通訳でも翻訳でも、基本的に教材の話し手や書き手に質問することはできない環境です。そのため、自分で調べたことや、自分の解釈に頼って訳すわけですが、実際の現場では、質問することが当たり前で、逆に質問せずに自分の解釈で訳して間違うよりも、質問した方が絶対にいい環境です。そのような環境で仕事をしてみて、自分の本当に聞きたい情報を的確に引き出せるように、質問をすることにも慣れておく必要があると感じました。

―MIIS で学んだことがインターンシップでどう活かされたか、お聞かせください。

もちろん通訳のメモ取りの技術をはじめ技術面で活かされたことはたくさんありましたが、MIISで学ぶことで打たれ強くなったことが私には大きかったです。私はすごく緊張するタイプなのですが、何かの課題に直面しても「次に行こう」という気持ちで通訳に臨むことができたのは、MIISで1年間授業を受けてきた中で打たれ強くなったおかげかなと思います。通訳をしていると失敗はとてもよくあることですが、失敗の連続でもくよくよせず、その失敗から学んだことを活かしていこうと思える性格が1年で培われたのではと思います。

また、これは質問とは逆になりますが、MIISで学んでいないことでとても苦労したこともあります。英日通訳の授業で扱われる教材は、ほとんどが英語ネイティブのスピーカーのもので、基本的には流暢なイギリス英語やアメリカ英語です。でも実際に通訳が必要な現場では、英語ネイティブの方ももちろんいますが、そうでない方も多く、聞き取りに苦労したこともありました。そのような時にはリスニングにより集中力を使うことになり、それが本当に大変でした。今の時代、英語ネイティブでない方が英語を話す機会はたくさんあるので、いかにいろんな人の英語に慣れるかがすごく重要で必要なことだと強く感じました。