Author Archives: Hideko Russell

卒業生インタビュー【森田系太郎さん】

今回は、2012年に会議通訳修士課程を卒業された、森田系太郎さんにお話を伺いました。

―森田さんはアドバンスエントリー制度を利用してMIISに2年目から入学されましたが、まず、MIISに留学しようと思ったきっかけを教えていただけますか。

MIISには2011年の8月に入学しました。遡ること同年3月、立教大学で博士論文を提出し、9月に博士号取得予定でした。卒業後にそのまま環境社会学者としてアカデミアに残るべきか、それとも新たなキャリアとして関心を抱いていた通訳者になるべきか、岐路に立たされました。“To be or not to be an interpreter”ですね。そして、結局、後者を選択しました。

理由は2つ。1つ目は、もちろん、プロの通訳者になるための訓練を受けたかったことがあります。立教大学には修士・博士課程を通じて6年半在籍しましたが、ともに社会人向けコースで授業が夜間に開講されていたため、昼間はフリーランス翻訳者として働いていました。その際、短期間ですが通訳学校に通っていたこともあり、たまに通訳のご依頼もいただいていました。しかし、付け焼刃では太刀打ちできず。いつか、十分な時間を確保して体系的に通訳訓練を受けてみたいと思っていました。

2つ目は、博士論文を提出した2011年3月に生じた東日本大震災です。当時、私の故郷である仙台に母親が1人で住んでおり、水道・電気・ガス・食糧供給がストップするなかで、母を故郷の鳥取に避難させなければならない状態になりました。このような経験のなかで、「人生一度きり、だから常にやり残したことはないようにすべきだ」「アカデミアはとりあえず経験したから次は通訳を勉強してみたい」という思いが芽生えてきたのです。

「MIIS時代にブースで同時通訳を練習中の筆者」

MIIS時代。ブースで同時通訳を練習中

思い立ったら吉日。早速、通っていた通訳学校「土曜学校」の校長で、元MIIS教員でもある中山貴子先生に相談したところ、MIISを勧められ、すぐに願書を提出。その際にアドバンスエントリー制度という2年次に編入できる制度があることを知り、受験することにしました。受験に当たってはTIコース(Translation & Interpretation[翻訳通訳]コース:逐次通訳と翻訳がコア科目。同時通訳も履修可能)を考えていましたが、当時、日本語学科主任でいらっしゃった武田珂代子先生(現・立教大学教授)にCIコース(Conference Interpreting[会議通訳]コース:同時通訳と逐次通訳がコア科目。翻訳も履修可能)を勧められ、後者で受験することに。予期せぬ航路変更でしたが、結果として合格に至りました。武田先生に勧められて偶然、CIコースに進んだわけですが、そこで同時通訳のスキルを学べたことは現在の職場でとても役立っているので、その偶然は必然だったのかも知れません。ということで、中山先生、武田先生には今でも足を向けて寝ることはできません(!)。

なお、アドバンスエントリー制度については、1年で修了できるため、時間・資金面でメリットがあります。ですが、アメリカ生活に慣れながら、通訳と翻訳を基礎からじっくりと学べる、という点では、2年間かけて修了することにもメリットがあると考えています。

―現在は、どのようなお仕事をされていらっしゃいますか。

アメリカ東海岸の製薬企業で通訳・翻訳の仕事に携わっています。通訳が業務の95%以上を占めており、同時通訳・逐次通訳の両方のスキルが必要とされます。職場では、医薬品開発のための臨床試験に関するトピックのみならず、その前の段階で行われる基礎研究や非臨床試験に関する会議を担当することもあります。また、臨床試験が終了し、当局から承認されるとその製品は市場に出る(「上市」)わけですが、上市後に行われる試験に係る会議や、セールス・マーケティングの会議もあります。他には、薬事や製薬系IT、ファーマコビジランス(PV)、医療機器、人事、法務関連の会議の通訳を担当することもあります。

担当する会議のトピックが多岐にわたるので、とても刺激的な毎日を過ごしています。逆に言えば、日々勉強の毎日です。MIISを卒業したから勉強はオシマイ、という訳ではなかったですね、残念ながら(笑)。半年ほど前、MIIS・1年生の日英通訳の実践練習をお手伝いする目的で、「Becoming the Interpreter」という発表をさせていただきましたが、発表の主旨は「理想の通訳者になるためには、MIISで身に付けたことを土台とし、卒業後も、現場を踏みつつ、努力し学び続ける必要がある」というものでした。

―MIIS で学んだことが、いまお仕事にどう活かされているか、お聞かせください。

逐次通訳については、ノートの取り方を学べたことは大きかったですね。また「ノート取り」と「聞き取り」とのバランス、訳出時のデリバリー(「えー」「あー」といった耳障りなfiller語を減らすなど、クライアントに聞きやすく訳出する等)についても、授業のなかで厳しく指導されました。こういったことは、今の仕事でとても生かされていると感じています。

同時通訳については、ご存知のとおり「聞きながら話す」というアクロバティックな(!)行為ですが、そのスキルを実践的に学ぶことができました。また、文を短く切って訳出する先入れ先出し法(First In First Out;FIFO)法――過剰な使用は聞きづらい――の適切な使用法や、話すスピードが速い話者を攻略する術も教わりました。

上記に加え、ノン・ネイティヴ・スピーカーの「訛り」対策や、授業にゲストを呼んでの実戦形式での練習、また1、2年生合同でのデポ(デポジション;証言録取)通訳の模擬演習なども、総合的には今の仕事に役立っていると思います。加えて、通訳者としての倫理、マナーを学ぶ授業もありましたが、そのなかで「プロの通訳者とは何者か」「プロの通訳者としてどう振舞うべきか」を現場に出る前に考える機会があったのも有難かったですね。

またMIISの2年次では、CIとTIの学生が参加資格を有する「プラクティカム」と呼ばれる通訳演習の授業があり、そこでは他言語学科(中国語・ロシア語・ドイツ語・フランス語・韓国語・スペイン語)の学生と共同で、リレー通訳(例:中国語→英語→日本語)などを経験することができました。ちなみに、プラクティカムを通じて、日本語学科以外の友人ができたことは、一生の財産となっています。今の仕事では出張で国内外に出掛けることも多いのですが、出張先にMIISの友人がいる場合は必ずコンタクトを取り、旧交を温めるようにしているんですよ。

―MIIS の学生生活のなかで、一番思い出に残っていることを教えてください。

このインタビューに登場する皆さんが口を揃えておっしゃるように、やはりクラスメートとの練習でしょうか。授BeachHSR業の時間は限られていますので、やはり学生時代に力を伸ばすためには授業外でのクラスメートとの練習が上達の鍵となります。「サムソン」と呼ばれる食堂は学生の溜まり場にもなっており、どの学科の学生も集まって勉強しているのですが、やはり一番遅くまで残っているのは通翻訳を勉強している学生ではないでしょうか。多分に漏れず、私も夜遅くまでサムソンに残ってクラスメートと練習していました。ちなみに、学期中は授業と練習に追われ、観光地として有名なモントレーを観光する時間はほぼゼロでした。卒業試験が終わったあと、ようやく観光を始めたくらいでした(笑)。

―入学希望者の方たちに、特にアドバイスがあればお願いします。

通翻訳者になりたいと真剣に望まれているのであれば、ぜひMIISの門を叩いてみてください。業界でもMIIS卒業生の評判は非常に高いものですし、MIISを通じてクラスメートのみならず、他言語学科の学生、先輩・後輩たちとのネットワークを築くことができます。また2020年には東京オリンピックが開催されます。それによって通翻訳の需要が高まると考えられているので、今後の成長産業、ということで、キャリア面でもメリットがあると思います。

冒頭でも述べましたが、人生一度きり。“To be or not to be an interpreter/translator”――ハムレット並みに迷っていらっしゃるのであれば、思い切ってMIISでチャレンジしてみませんか?

ATA(米国翻訳者協会) 年次会議について

今回は、現在MIISで翻訳を専攻している2年生のワインストック美智代さんにATA(米国翻訳者協会)の年次会議に出席した感想を書いていただきました。

**************************************

unnamed今回は初回の参加ということで、名札に「First Time Attendee 」とシールが貼られていたので、長年会員をされているメンバーの方々から、レセプション、セッション、その他のイベントで声をかけていただきました。今はベテランの方々も、かつては未経験の翻訳者や通訳者の卵だった時代を経験しています。そこからいかにして仕事を得て、クライアントを増やし、経験を積んでいったか、一人ひとりそれぞれのストーリーがあり、皆さん喜んで気さくに教えてくださいました。こういったお話が非常におもしろくてためになり、これだけでも会議に来た甲斐があったと思いました。また翻訳エージェンシーの方も何社かいらしていて、名刺交換させていただきました。私は2月に地元モントレーであったMIIS主催のキャリアフェアのために学校のロゴ入りの名刺をたくさん作っておいたので、それがとても役に立ちました。また、MIISの先輩方にもお会いする機会があり、親睦を深めることができました。michiyo3

ATA認定試験対策のワークショップも非常に役に立ちました。採点基準に関して詳しく説明していただいた上で、実際に私が翻訳してみたサンプル問題の訳出に具体的なアドバイスをしていただきました。どうすればもっと良い訳になる、といった内容ではなく、減点になり得る箇所について、なぜ減点になったか、減点されるとすれば何点くらいマイナスになるか、といったことをアドバイスしてくださいました。

MIISの授業で鍛えられていて本当に良かったと思うのは、授業の課題や宿題でも、同じような減点方法でフィードバックをいただることです。まるで毎週認定試験の模擬試験を受けているようなもので、真剣に翻訳に取り組み、フィードバックを素直に受け止めて、自分の翻訳の癖やよくある間違いを軌道修正していくことにより、知らず知らずのうちにスキルが上がっていると確信しています。ATAの評点者の方もおっしゃっていましたが、訳出が一見きれいな日本語でも、原文と意味がずれていたり、過不足や、余計なニュアンスが入っmichiyo4ていると、翻訳としては優れたものではありません。アウトプットに悦に入り原文のメッセージから離れてはいけないのです。忠実で正確でありながら、直訳調にならず自然で読みやすい翻訳をする、非常に重要なことですが、このバランスを会得するのはたやすいことではありません。プロになったとき、翻訳の質が良くなければ仕事がこなくなるだけで、フィードバックをいただける機会もほとんどないと聞きます。批評をいただけるのはとてもありがたいことなのだ、それがATAを通してMIISでの学習について改めて思いを巡らせた感想です。

 

 

 

 

 

 

卒業生インタビュー【トーマス・ホワンさん】

今回は、2010年の卒業生トーマス・ホワンさんにお話を聞きました。トーマスさんは、MIISで翻訳・ローカリゼーション管理(MA in Translation and Localization Management)を専攻され、現在は翻訳会社のプロジェクト・マネージャーとして活躍されています。

―まず、MIISの修士課程で翻訳・ローカリゼーション管理を勉強しようと思ったきっかけを教えていただけますか。

cropped-Monterey-Harbor.jpg私は高校のときに日本語の勉強を始め、大学では日本語を専攻しました。大学卒業後は専攻をぜひ活かしたいと誰でも考えると思いますが、私もまず翻訳関連の仕事を探しました。専攻といちばん直結した仕事は翻訳だと思ったからです。いろいろ調べている途中で、大学で開催されたキャリアフェアにMIISから代表が来ていたので、話を聞いてみました。さらにMIISについて資料を集め、MIISキャンパスを実際に見学したあと、家族やキャリアアドバイザーの勧めもあり、入学を申し込みました。MIISで勉強することが、将来キャリア探しに役立つはずだと考えたからです。

―ご卒業後は、翻訳・ローカリゼーションの会社でプロジェクト・マネージャーをされていると伺いました。どのようなお仕事か、教えていただけますか。

簡単にいえば、クライアントから来たファイルを受け取り、そのファイルの翻訳を責任を持って完成させてクライアントに納品する担当者、ということでしょうか。

IT時代のいま、エンドユーザーは迅速で簡単に情報を得ることを求めています。このためローカリゼーションでは、翻訳者やエディターはただワードファイルで作業するだけではすまなくなってきました。ほとんどの場合、ウェブサイトのアップデートの繰り返しや、モバイル用のアプリについても対応しなければいけません。それから、Flashバナーや動画など、マルチメディアコンテンツも激増しています。たった2分の字幕つき動画に対して、5~6人以上が関わることもあります。 翻訳対象の言語が増えれば、人数はさらに増えます。

そういったなかでプロジェクト・マネージャーは、プロジェクトで何がカバーされるか、何が期待されるかを、関係者全員に確実に理解させなければいけません。そして、クライアントとベンダーとコミュニケーションを取り、翻訳関連の問題を解決し、担当プロジェクトが必ず納期通りに完了するように、プロジェクトの各ステップの進行状況を常に管理することが必要です。

それからプロジェクト・マネージャーは、コミュニケーションをはかり、プロジェクトの進行を管理するだけでなく、何が最適な手順なのかいつも考えながら、プロセスの改善につとめなければなりません。品質を犠牲にしないでコストを削減することはできるか。要求条件がいくつか課せられているなかで、コストパフォーマンスが最適なアプローチは何か。どんな問題が起こりうるか、それを防ぐためには何をすればいいか。新規クライアントとのキックオフ・ミーティングや、既存のクライアントとの現行プロジェクトなどで、プロジェクト・マネージャーは、こういった問いに対応しなければなりません。この仕事の楽しさは、こういった新しい課題が毎日待ち受けていることですね。

―在学中はインターンシップなどはされましたか。どんな経験だったか教えてください。

MIISの1年目が終わった夏休み、東京の翻訳会社でインターンとしてつとめました。翻訳ツールmiis_campus_securityを使った作業やQA(品質管理)、プロジェクト管理などに、このときはじめて関わりました。プロジェクト・マネージャーのQA作業を手伝ったり、翻訳メモリの整理をしたり、依頼メールの送信・受信を管理したりといった業務が大半でした。

2年目は、教授から紹介されたインターンシップの仕事をさせていただきました(MIISの教授はすべて現役のプロフェッショナルです)。翻訳エージェンシーの仕事で、翻訳管理システムやプロジェクト管理について、さらに経験を積むことができました。QA や翻訳メモリのアップデートを手伝ったほか、プロジェクトの管理を最初から最後まで任されました。おかげで、学校で習ったことを活かすと同時に、実際の現場でどのようにローカリゼーションが進行するのか、学ぶことができたと思っています。

―MIIS で学んだことが、いまお仕事にどう活かされているか、お聞かせください。

ほかのTLM(翻訳・ローカリゼーション管理)専攻の仲間と、実際のクライアント案件や翻訳プロジェクトの管理作業をする機会に恵まれました。翻訳者を探し、翻訳料金を交渉する。予算のバランスを取りながら、プロジェクトがスムーズに進むよう、関係者全員とコミュニケーションを取る。どれも私にとってははじめての経験でした。新人ならではの失敗もたくさんしましたが、TLM専攻の学生としてもっとも成長した時期は、このプロジェクトを担当していたときだったという思いが強いです。このときに学んだことで、いまの仕事でも活かせていることはたくさんあります。

MIISで翻訳を学んだことも、いまの仕事に大きく役立っています。最適な国際化とは何か、クライアントに説明するときに、言語面からプロジェクトを見ることができるからです。翻訳者の立場に立たなければ、翻訳関連の問題を説明したり、予測したりすることは難しいでしょう。

―MIIS の学生生活で、いちばん思い出に残っていることは何ですか。

Samson Centerいちばん印象に残っている大切な思い出は、友だちのことです。1年目はTI(翻訳・通訳)専攻だったのですが、日本語プログラムは10人ぐらいでした。みんな、とにかくいつでも一緒にいましたね。サムソンセンター(カフェテリア)に入ると、通訳などを練習していたり、翻訳の宿題のピアフィードバックをしているクラスメートに必ず会いました。こういった時間がいちばん楽しかったですね。2年目からTLM専攻に変えたあとは、あまり会えなくなってしまったので寂しかったです。

―入学希望者の方たちに、特にアドバイスがあればお願いします。

まず、いろいろな意見を受け入れられる柔軟な心を持つことです。MIISでは、自分の翻訳や通訳などに対して、先生や仲間からたくさん批評を受けることになります。こわいな、と思うかもしれませんが、そういった率直なフィードバックをもらわなければ、あれほど多くを学ぶことはできなかったと私自身は痛感しています。クラスメートはそれぞれの得意分野に基づいたフィードバックをしてくれます。それをしっかりと受け止めることが、ずっとあとになっても活かせるような、非常に貴重な財産になると思います。

それから、ときどきはゆっくり休むことです。何時間もかけて課題をやったり、試験勉強をしたりして、ストレスを抱えることも多いでしょう。だからこそ、大事なときに実力が発揮できるよう、心も体も必ずゆっくり休憩させることが大切ですね。

卒業生インタビュー【ダニエル・ドラモンドさん】

今回は、今年MIISの翻訳修士課程を卒業されたあと、翻訳者としてご活躍中のダニエル・ドラモンドさんにお話を伺いました。

―はじめに、MIIS を選ばれた理由を教えていただけますか。

Headshot

MIISキャンパスで

MIISの名前を初めて聞いたのはJETプログラム(語学指導等を行う外国青年招致事業)に参加していたころです。その後もMIISのことは常に頭の片隅にありました。でも翻訳を仕事として本格的にやってみたいと思ったのは、アメリカに帰国してから数年経ったころです。日本語と英語の翻訳プログラムがある学校をいろいろと探して、最終的にMIISとケント大学に絞り込みました。どちらも素晴らしいですが、MIISの国際性を重視した姿勢や雰囲気が自分には一番合っていると感じました。

―卒業後はどのようなお仕事をされていらっしゃいますか。

カリフォルニア州サンタクララにあるチェン・ヨシムラ法律事務所で特許翻訳者として働いています。肩書きの通り、仕事のほとんどは日本語から英語への特許翻訳です。私たちの仕事の最終的なゴールは、クライアントが申請している特許出願が許可されることですので、時には単なる翻訳の範ちゅうを超えたサポートを提供することがあります。特許申請が通る可能性が高まるように、基準に照らしあわせて申請書を多少調整しなくてはならないことがよくあります。

―MIIS で学んだことで現在の仕事に活かせていることを教えてください。

RelaxingatMIIS

クラスメイトと

特に役立ったと実感している点が3つあります。私は翻訳専攻でしたが、ローカリゼーションのクラスをたくさん取りました。いまの職場で翻訳ソフトウェアを使っているので、特に翻訳支援ツールの実習ができたことに、感謝しています。それから、ラッセル秀子先生の翻訳のクラスで長めの文書を翻訳する機会に恵まれて良かったと思っています。翻訳で使用する用語、スタイルなどを長い文書の翻訳で統一を図りながら取り組んだことは、20ページ以上に及ぶことが多い特許翻訳をするのに役立っているからです。そして、ターニャ・パウンド先生の特許翻訳クラスですね。特許の長い文章をどのように読解して、うまく区切りながら翻訳するかを学んだことは、いま仕事で特に一文が長くて理解が難しいような文章を訳さなくてはならないときに、当然のことですが役立っています。

―学生時代はどんなことに力を入れて過ごしていましたか。

WIPOfirstday

WIPOインターンシップの初日

一人で勉強やリサーチをして過ごす時間も長かったですが、クラスメイトともよく一緒に勉強しました。特に翻訳の宿題についていろいろ意見を交わしたことはとても役に立ちました。議論を通して他の人の解釈を聞いたり、あるフレーズが何を意味し、どのように訳すか、といったことを話し合ったりしたのは、とてもいい経験でした。

―学生生活のなかで一番思い出に残っていることは何でしょうか。

一番記憶に残っているのはクラスメイトと過ごした時間です。サムソンセンター(カフェテリア)などキャンパスで一緒に勉強した時間だけでなく、ハイキングに行ったりランチを一緒に食べたりといった、自由時間があまりないなかで一緒に楽しく過ごした貴重な時間が印象に残っています。MIISで過ごした2年間の間に築いた友情をとても大事にしていますし、これからも機会があればMIISでできた友人と交友を温めるのを楽しみにしています。

―入学希望者にアドバイスがあればお願いします。

同期の神野裕史さんもこのブログのインタビューでお話しされていたと思いますが、入学を検討されている方は、MIISを実際に訪れてみて翻訳や通訳のクラスを見学することをおすすめします。自分が願書を出しているときにそういった機会があればよかったと思います。そうしていたら、クラスがどんな感じであるとか、入学前に何を準備しておけばいいかもっとよく分かっていただろうと思います。2番目のアドバイスとしては、当たり前に聞こえるかもしれませんが、実際の仕事と同じように厳しい締め切りのある翻訳の経験を積むことです。そうすることで翻訳者の仕事がどういったものか理解できると思いますし、自分が実際に翻訳者に向いているか見極めるのにも役立つと思います。

卒業生インタビュー【デュボワ都さん】

今日は、2011年にMIISを卒業後、日本で翻訳者としてご活躍されているデュボワ都さんにお話を伺いました。

―今回はお時間をいただき、ありがとうございます。まず、MIIS入学に至るまでの経緯を教えていただけますか。

米国の大学を卒業後、OPT制度を利用してサンフランシスコの語学学校で働いていましたが、将来就労ビザを取得するためにはもっと専門性の高い仕事に就く必要があると気づき、大学院進学を考え始めました。ベイエリア周辺の大学院のプログラムを調べていたところ、MIISのウェブサイトでオープンキャンパスがあることを知り、当時住んでいたイーストベイからバスを乗り継いで見学に行きました。翻訳の経験がなくても基礎から学べること、現役の翻訳者の授業を受けられることに魅力を感じ、すぐに出願の準備を始めました。

―卒業後は、主にどういった分野の翻訳のお仕事をしていらっしゃいますか。

最初の仕事は、カリフォルニアにある特許事務所での社内翻訳者兼コーディネーターでした。その後、帰国が決まったのをきっかけにフリーランスに転向しました。

内容としては、一番多いのが特許関連の文書の日英翻訳です。その他にプレゼン資料や広告など、ビジネスやマーケティング分野を扱うこともあります。miis_campus_security

―いまのお仕事で、MIIS で学んだことがどう役立っているか、お聞かせください。

何よりも、特許、技術、医薬、リーガルなど幅広い分野の翻訳を学べたことが役に立ちました。大学までいわゆる文系で、理系の文章に触れる機会は少なかったのですが、課題をこなしていくうちにそれまでの苦手分野への抵抗が少なくなってきたように感じます。

MIISでできるネットワークも、この学校の大きな強みだと思います。卒業後、先生方やクラスメート、キャリアセンターのアドバイザーを通して仕事の打診が来ることも珍しくありません。私は選択科目でローカリゼーションやビジネスのクラスを取っていたので、日本語以外のプログラム専攻の学生と知り合う機会がありました。卒業後、そのうちの何人かが多言語プロジェクトのPM(プロジェクトマネージャー)になり、和訳を担当しないかと声をかけてくれたこともありました。

―学生時代は、どんなことに力を入れて過ごされていましたか。

1学期目はTLM(翻訳ローカリゼーション管理)のコースでしたが、翻訳をもっと学びたいと思い、次の学期からは翻訳のみのコースに移り、日英・英日翻訳のクラスはすべて取りました。日英の授業は私だけ非英語ネイティブということもありましたが、その分とても鍛えられました。

―学生生活のなかで、一番思い出に残っていることは何ですか。

why_monterey_instituteひとつだけ選ぶのは難しいのですが、クラスメートに恵まれたことでしょうか。毎日のように、カフェテリアで一緒に勉強していたのを覚えています。サイトトランスレーションや翻訳の授業では、お互いの翻訳やパフォーマンスを評価することが多く、自分が発表するときには不安になることも多かったのですが、お互いを尊重しあう、温かい雰囲気のクラスだったので救われました。

―MIIS に入学を希望されている方たちに、特にアドバイスがあればお願いします。

これは私が入学したときにある先輩からもらったアドバイスなのですが、分野を限定せず、英語と日本語の両方でたくさん読むこと。

また機会があればキャンパスの見学や、入学希望者向けのイベントに参加してみるのもいいと思います。特に後者は日本でも開催されるので、留学を迷っている方は気軽に参加してみてください。

卒業生インタビュー【マッケルビー麻衣子さん】

今日は、2009年にMIISを卒業後、日本で通訳・翻訳者としてご活躍されているマッケルビー麻衣子さんにお話を伺いました。

―今日はお忙しいなか、ありがとうございます。まず、マッケルビーさんが MIIS に留学を決めた理由を教えていただけますか。

帰国子女で英語が得意だったこともあり、中高生の頃から通訳者という職業もひとつの選択肢として視野に入れていました。大学では、通訳の授業を受け、簡単な通訳の仕事を経験したことで、通訳者になりたいという気持ちが固まっていきました。

働きながら日本の通訳学校に通うことも検討しましたが、通訳の訓練に集中したかったこと、国際的な感覚をもっと身につけたかったこと、そしてプライベートな理由として、当時付き合っていた、現在の夫の近くに住みたかったことなどもあり、MIISへの留学を決意しました。

―卒業後は、主にどのようなお仕事をされていらっしゃいますか。

卒業してすぐに、栃木県にある本田技術研究所四輪R&Dセンターで、社内通訳翻訳者として働き始めました。当初は購買部門に配属されていましたが、1年後に希望が叶って、研究開発部門の通訳チームに移りました。どちらにおいても、多くの経験を積ませていただき、プロの通訳者としての自信をつけることができました。

そのさらに1年後には、東京に拠点を移し、フリーランスとして独立しました。依頼される内容はITと製造が多いですが、他分野の仕事も依頼されれば、積極的に受けています。また、昨年夏に出産して、いまは育児とのバランスを計りながら仕事をしています。受けられる仕事の量が減った分、ひとつひとつの仕事に、丁寧に取り組むように努めています。

―MIIS で学んだことが、いまお仕事にどう活かされているか、お聞かせください。

winter_graduation_1MIISで叩き込まれた通訳の基礎は、仕事で日々活きています。例えば、通訳においては、言葉だけではなく、メッセージも追うこと。聞き取りやすさも意識すること。逐次通訳における記憶とノートテイキングのバランス。同時通訳におけるさまざまな戦略。先生だけでなく、勉強の仕方や通訳・翻訳における戦略などは、クラスメートからも学ぶところが多かったです。

また少し質問から外れますが、MIISの先生や同窓生の方々には、いまでも仕事でお世話になることが多いです。在学時の先生やクラスメート、1年上の先輩や1年下の後輩はもちろん、在学期間が重なっていない方でも、同じ学校の出身者ということで親しくしていただいています。こうしたMIISを通してのご縁も、仕事で活きています。

―学生時代は、どんなことに力を入れて過ごされていましたか。

MIISに行くことはわたしにとって大きな投資だったので、それに見合うだけの何かを得なければならないと、とにかく実践的なスキルの取得に打ち込みました。ひとつひとつの授業に対して、時間の許すかぎり予習をして、授業の中ではなるべく発言するようにしていました。

P1050862

学校主催のスキー旅行でレイクタホへ

また、クラスメートとスタディーグループを組んで、カフェテリアのSamson Centerや空き教室で、毎日のように練習していました。みんなとても意欲的で、互いに助け合う風潮があり、本当に恵まれていたと感じています。

―MIIS の学生生活のなかで、一番思い出に残っていることは何ですか。

スタディーグループで何時間も一緒に勉強していたこと、そして勉強の合間には、友達と美味しいものを食べながら息抜きをしていたことが記憶に残っています。特に近くの中華料理店、Full Moonにはよく行っていました。日本語ができる女性がいて、行くたびに癒されていました。また1学期に数回は、少し奮発してMonterey Fish Houseにも行っていました。シーフードが美味しいお店なので、入学される方もされない方もぜひ行ってみてください(笑)

―MIIS に入学を希望されている方たちに、特にアドバイスがあればお願いします。

MIISの授業は、受け身だと得られるものは限られます。授業に対して、積極的に予習し、参加してこそ、身につくものが多いです。またクラスメートからも学べることは多いので、スタディーグループを作って互いに高め合えると、とても有意義な学生生活が過ごせると思います。

卒業生インタビュー 【神野裕史さん】

今回は、今年MIISの翻訳通訳修士課程を卒業されたあと、アメリカで通訳・翻訳者としてご活躍中の神野裕史さんにお話を伺いました。

―今日はお忙しいなか、ありがとうございます。はじめに、 海外の大学院で通訳と翻訳を学ぼうと決めた理由を教えていただけますか。

一番の理由は、通訳・翻訳技能を身につけるには時間をかけて訓練を積む必要があるだろうと思ったからです。2年間という時間を通訳・翻訳の勉強に投資して、実力をつけたいと思ったからというのが最大の理由でした。

MIISで学ぶ前は、財団法人で日本語を母語としない方を対象としたBJTビジネス日本語能力テストの普及業務を担当していました。受験者の中には東アジア・東南アジアの日本語通訳・翻訳者の方も多く、通訳・翻訳の仕事に興味を持ちました。

そこで、日本で通訳学校に1年ほど通い、非常に楽しかったのですが、会社から帰った後、夜21時くらいから同時通訳の練習をすると頭が興奮して眠れなくなるし、朝起きてから出社までの間はゆっくりしたいし、満員電車で勉強するのもつらいし…と、勉強時間の確保が大きな課題でした。仕事と学業を平行させていくのは私には合わないのだろうと気づき、しっかり勉強できる環境を探して出会ったのがMIISでした。

―神野さんは今年5月に卒業されたあと、アメリカで就職されたと伺いました。どのようなお仕事か、お聞かせください。Jinno 1

ソフトバンクが買収した携帯電話通信事業者のスプリントのネットワーク部門で、Global Communications Managerとして働いています。現在の主な業務は、ソフトバンク・スプリント役職員のコミュニケーションを通訳・翻訳業務を通じてサポートすることです。ネットワーク品質や効率を高めようとソフトバンクとスプリントが一体となってイノベーションを起こしていくビジネスの最前線に立ち会えるのは、非常に刺激的です。

―MIIS で学んだなかで、「現場で活かせている」と実感できるのは、どんなスキルでしょうか。

最も大きいのは、なんと言っても通訳・翻訳の実務能力だと思います。通訳にせよ、翻訳にせよ、意味を捉え、別の言語で伝えるのは、MIISでの訓練の量と質、両方必要だったと感じています。Jinno 2

通訳者・翻訳者としてのコアスキルは意味を捉え、別の言語で伝えられることだと思いますが、翻訳であれば「誤字脱字を見逃さない」「パソコンを使いこなす」、通訳であれば「必要な声のボリュームで話す」「座る位置、立つ位置を意識的に選ぶ」などの周辺知識、コンピテンシーも含めて学習できるのがMIISの良かった点だと思います。

―学生時代はどんなことに力を入れてすごしていましたか。Jinno 3

あまり楽しい大学院生活に聞こえないかもしれないのですが(笑)、クラスメートとの練習です。入学前に読んだマルコム・グラッドウェルの本に「何かに習熟して一流になるのに、人は1万時間の積み上げが必要」と書いてあったので、2年間で1万時間は無理にせよ、なるべく技能を積み上げるために時間を割こうと思っていました。

―学生生活で一番思い出に残っていることをお聞かせください。

1年に1度、通訳を学んでいる全言語の学生が逐次通訳をMIIS・モントレーのコミュニティ全体にお披露目するFall Forumというイベントがあります。イベントの企画・実行にかかわったことで、通訳をイベント主催者の視点から考えることができたほか、他言語の学生たちと一緒に働く機会が持て、非常に勉強になりました。Jinno 4

―それでは最後に、MIIS入学希望者にアドバイスがあればお願いします。

入学前に2点お勧めしたいことがあります。まず1つ目ですが、サイトトランスレーションと逐次通訳の授業を見学されることをお勧めします。教授だけでなく、バイリンガルのクラスメートに自分のパフォーマンスを見られ、(批判ではなく)批評を受ける環境なので、言語能力と心の両面から準備ができているか検討する良い材料になるかと思います。jinnno 5-2

2つ目ですが、通訳・翻訳という職種柄、言語の組み合わせと母語によって、また、国によって、市場が大きく異なるので、どの国にどのような仕事があるのか、どの国で働きたいのか(働けるのか)、MIISのキャリアセンターなどから情報を得て、大まかなイメージを持てるようにしておくと良いと思います。

在学生インタビュー【カトリン・ラーセンさん WIPOインターンシップについて】

MIISでは、毎年スイスの世界知的所有権機関(WIPO)でインターン翻訳者として働く学生がいます。今回は、WIPOから帰ってきたばかりのカトリン・ラーセンさん(翻訳・通訳修士課程2年生)に感想を伺いました。

―今日はお時間をいただきありがとうございます。カトリンさんはこの夏3ヶ月間、WIPOでインターン翻訳者としてご活躍されましたが、まず、MIISにいらっしゃる前はどのようなお仕事をされていましたか。

私は子供のころからアメリカで育ったのですが、日本に興味を持っていました。初めて日本語を勉強できたのはスタンフォード大学に入学してからで、その後、日本語に関わる仕事をしたいと考えました。大学を卒業してからすぐ日本に引っ越し、日本のモバイルインターネット企業DeNAで海外人材の採用を担当していました。この時に面接の通訳をする機会に恵まれて、初めて通訳という仕事を実際に体験できました。

WIPO Geneva

スイスのジュネーブにあるWIPO外観

1年半を少し過ぎた時点でアメリカに帰り、身についた日本語を使って、サンフランシスコにある同社の子会社で日本人の経営陣とIRチームのサポートなどをしていました。
IRチームの仕事関連で通訳の業務が増えて、社内全社ミーティング、社外の投資家との会議など、いろいろな場面で通訳をする機会がありました。しかし、通訳の訓練を受けたことがなく、自分の通訳はかなり未熟なものだと実感しましたので、さらにスキルを磨きたいと考え、MIISで勉強することに決めました。

―今回のWIPOのインターンシップでは、具体的にどんな翻訳のお仕事をされていらっしゃったのでしょうか。

簡単に言いますと特許の日英翻訳です。世界の多くの国から特許がWIPOに提出されて、そのすべてを英語とフランス語に翻訳する必要があり、私の場合は日本からの特許の要約と特許庁が作成している国際予備審査報告を英訳していました。かなり独特なスタイルが特徴で、慣れるのに大変でした。さらに、専門性の高い内容ばかりで、原文を理解するために当該分野の知識を身に付ける必要がありました。日本の特許は幅広い分野で申請されているので、自動車をはじめ、あらゆる製造方法、製薬、半導体など一般的な分野の発明から、ゲーム内で不法にアイテムを盗めないようにするシステムなど、様々な発明に触れることができました。特に多かった自動車と半導体の分野では、資料を引用しなくても詳しく説明できるようになったような気もしています(修理はさすがに無理ですが)。

Matterhorn

マッターホルンを背景に

プロセスとしては、まず原文を読み、わからないことや確認する必要がある箇所を関連資料で確認しながら翻訳をしました。出願書の要約のみを翻訳していましたが、WIPOでは出願書を全部見ることができましたので、請求の範囲などを見ることが理解にかなり役立ちました。書き終わったらドラフトを数回読み返し、英語で意味が通じているのか、意味がずれていないか、数字や複数形が合っているかなど確認をしてから修正担当者に提出します。修正担当者は全員WIPOの非常に優れた英日翻訳チームで、特許に大変詳しい方々です。その方々から修正箇所の指摘や全体のフィードバックをいただいて、自分の翻訳を修正してから最終提出をしました。たまには「練習」という形で、間違ってはいないけれど、よりきれいに表現できるはずという箇所の指摘を受け、いくつか可能な翻訳を考え、そのメリット・デメリットを議論しました。大変なときももちろんありましたが、そのおかげで便利な表現と文法構造を学ぶことができました。

―インターンシップでは、そのほかにどのような学びがありましたか。

私にとっての一番の気づきは、他の人にとっては目新しいことではないかもしれません。日本語を書く人はほぼ全員日本語のネイティブなので誰でも上手に書け、当然間違いなどしないものだとなぜか思い込んでいましたが、今回の経験で自分の思い込みが間違っていたことに気づきました。質の高い原文ももちろんありましたが、漢字の変換ミス、コピー・貼り付けの間違い、曖昧に書かれていて意味が通じないものもたくさんあり、そのような文章にどう対応するかで力を試されました。

また逆に、私は英語ネイティブなので、英語で書くときは言いたい意味が通じていると自分が思っていれば、それはまったく問題なく通じているのだと勝手に自信を持っていましたが、テクニカルな分野の書き方にはそれなりのコツがあることがよくわかりました。「口では通じるけれど書く場合は使えない」、「意味はわからなくはないけれど曖昧過ぎてテクニカルなものに相応しくない」というフィードバックには、少しプライドが傷つくこともありましたが、そのおかげでテクニカルな書き方を学ぶとっかかりができたと思います。まだまだですが、これからそのスキルを磨き続けたいと思っています。

―それでは最後に、MIIS で学んだことがインターンシップでどう活かされたか、お聞かせください。

UN Broken Chair

国連広場「壊れた椅子」の彫刻

私は2年目で学ぶテクニカル翻訳の授業をまだ履修していませんでしたが、毎回の翻訳の課題でわからないことをすべて調べきり、利用する表現を全部徹底的に調べるように指導してくださったMIISの先生に感謝しています。特に特許の要約は短いですが、すべての言葉に意味が込められており、その意味と意図をつかんで、そのすべてが英語で正しく反映されているかを確認するのが極めて大事です。長々と続く文章や複数形の曖昧さなどは日本語の特徴で、どの部分がどこにかかっているのか、ある部分は一つだけか複数なのかなどは、原文だけではわからない場合が多かったので、出願書や当該分野について調べる必要がありました。実際に翻訳を勉強し始める前には、翻訳というのは文章だけを見て訳すものだと思っていたのですが、特許翻訳を通じて専門知識やリサーチの必要性を痛感しました。

特に私が苦労したのは言葉が二重の意味を持つ場合です。日本語の原文を理解し、その意味に合った英訳を書き、訳自体は間違ってはいませんでしたが、英語の表現に二つの意味があったことに気づかない場合がありました。こういったケースは特許では特に問題になりますので、英語を母語としていても、テクニカルなものを書くときにはとりわけ注意しなければいけない点があることを把握して書く必要性が、よくわかりました。

在学生インタビュー【山本千鶴さん UN Womenインターンシップについて】

MIISでは、2学期終了後の夏休みにインターンシップを行い、実績を積む学生が少なくありません。今回は、国連機関「UN Women日本事務所」でインターンをされた山本千鶴さん(翻訳・通訳修士課程2年生)にお話を伺いました。

―夏休み明けのお忙しいなか、ありがとうございます。山本さんは夏休みのあいだ、UN Women日本事務所で3ヶ月間インターンをされていましたが、どんなお仕事をされていらっしゃったのでしょうか。

大きく分けて4つあります。1つ目は企業との関係構築です。女性の活躍を推進している日本企業をリサーチし、絞り込んだのちに、役員の方々とのアポイントメントを取り、企業訪問に同行しました。また、UN Womenの取り組みを知っていただくために、日本語版の簡単な説明資料を作成しました。2つ目はUN Womenの重要な報告書である “Progress of the World’s Women”の日本語版作成です。翻訳会社との調整、および翻訳チェックを担当しました。3つ目はウェブサイトの翻訳です。日本事務所の開設によって、日本語での情報がより求められるようになるため、NY本部の英語のウェブサイトを日本語に翻訳しました。4つ目は開所式の準備です。UN Women日本事務所の開所式を開催するにあたって、招待状の発出および招待客の管理、必要な印刷物の手配、開所式運営のサポート、そして報道発表の準備を行いました。記者会見では、ムランボ=ヌクカUN Women事務局長の通訳を担当する機会にも恵まれました。

IMG_3235―インターンシップでどのような学びがありましたか。

事務所が開設されてから日が浅く、また、少人数の事務所であったために、非常に多くのことを任せていただきました。より多くの方々にUN Womenの活動を知っていただくため、日本事務所長のご指導のもと、政府や民間企業、市民団体、学術界等、様々な方々に働きかけを行いました。特に、新規にコンタクトを取った企業でも快く対応してくださり、あきらめずにやってみることで新たなつながりが結べるのだと実感しました。企業訪問に同行させていただいたことで、民間企業の取り組みや働く女性が置かれている状況を外側から知ることができました。また、事務所の開所式という一度限りの大きなイベントの準備に関わり、NYのUN Women本部や、日本事務所が存在する東京都文京区役所、外務省、イベント関係会社等、様々な方々とやりとりをするなかで、タイムリーなコミュニケーションの大切さを感じました。そして、まったく新しい組織での勤務だったため、情報インフラの整備と、組織の紹介資料等のツールの確保は大変重要であると痛感しました。日本事務所の初期メンバーとして事務所の立ち上げに携われたことは大変幸運だったと思っています。

―MIIS で学んだことがインターンシップでどう活かされたか、お聞かせください。IMG_3237

“Progress of the World’s Women”やその他媒体の翻訳をした際に、読み手にとってわかりやすい文章を作るように心がけました。文字通りの翻訳や意味が伝わるだけのものではなく、読み手がストレスフリーで理解できるように全体の意味を捉えた翻訳に仕上げるよう注力しました。また、開所式の記者会見で通訳をした際は、落ち着いて相手に伝わるような通訳を心がけました。知識を蓄えておくことで少しでも緊張がほぐれるように、事前のリサーチだけでなく、ムランボ=ヌクカUN Women事務局長が日本に到着された際には成田空港までお迎えに同行させていただきました。最後に、これは同時通訳にも関連しますが、マルチタスク、つまり複数の業務を同時遂行するスキルです。開所式が迫っていた時期には、翻訳チェックやその他業務も並行して進めていたため、仕事に優先順位をつけて取り組むことで、全体の進行を遅らせることなく進めることができました。このような素晴らしいインターンの機会を与えてくださり、ご支援くださった関係者の方々に心より感謝しています。

 

卒業生インタビュー【土方奈美さん】

MIISには、2 年次に飛び級入学し 1 年間で修士号を取得できる、「アドバンス・エントリー」という制度があります。翻訳や通訳の実務経験があり、規定の試験に合格することが条件です。

今回は、この制度を利用してMIISに留学された土方奈美さん(2012年卒)にお話を伺いました。土方さんは、『How Google Works(ハウ・グーグル・ワークス)私たちの働き方とマネジメント』(日本経済新聞出版社)、『世界の技術を支配する ベル研究所の興亡』(文藝春秋)、『TED驚異のプレゼン 人を惹きつけ、心を動かす9つの法則』(日経BP社)など、多数の訳書を手がけていらっしゃいます。

―今日はお忙しいなか、ありがとうございます。まず、土方さんが MIIS 留学を決めた理由を教えていただけますか。

忘れもしない2010年の大晦日、「来年はいよいよ40歳になるな」とぼんやり考えていました。人生のほぼ折り返し地点を迎えるにあたり、後半戦を有意義に生きるために自分をバージョンアップしたい、そうだ留学しよう、と思い立ちました。アメリカの大学院留学は学生の頃からの夢だったのですが、20~30代は仕事にかまけて忘れていました。今こそチャレンジする時期だ、と思ったのです。

では留学して何を学ぶか、と考えた自然な結論が翻訳でした。その3年前に新聞社を退社し、翻訳家として独立したのですが、きちんと翻訳を学んだことがなく我流でやっていて、これで良いのだろうかと不安がありました。また前職が経済記者だったため、書籍は経済関係の作品しか仕事の依頼がなく、もう少し間口を広げたいと思っていました。翻訳・通訳教育では高い評価を得ているMIISに留学して本格的に翻訳を学べば、仕事の機会も広がるのではないかと考えました。

―現在、主にどのようなお仕事をされていらっしゃいますか。

書籍翻訳と通訳が2本柱です。翻訳者は産業翻訳と書籍翻訳、通訳者の方は主に通訳という働き方が一般的なので、珍しいコンビネーションかもしれません。

書籍翻訳はMIIS留学前と同じように経済、ビジネス書が多いのですが、少しずつやわらかいテーマの作品も依頼されるようになっています。年間に3~4冊ペースが理想ですが、突然おもしろそうな企画が持ち込まれると無理してでも引き受けてしまうのでいつも首がまわらない状況です(笑)。

ただ翻訳だけですと、1日家族以外誰とも口をきかない生活で煮詰まってしまうので、1年ほど前にMIISのネットワークを通じて電力会社での社内通訳の仕事を見つけ、週3日働きはじめました。原子力発電の安全性を高めるために、海外から招聘されたアドバイザーの方の専属通訳をしており、毎日が新たな学びの連続で刺激を受けています。

―MIIS で学んだことが、いまお仕事にどう活かされているか、お聞かせください。

私はアナログ人間なので、ITを生かして翻訳作業をどのように効率化していくかという授業は目からウロコというか、とても勉強になりました。学んだスキルは今も仕事に活かしていますし、新たな技術を取り入れてどのように仕事の質を高めていくかという視点を常に持つようになったのもMIISの収穫だと思います。MIISの授業はどれも実践的なのですが、特に印象深いのは翻訳理論の研究者として名高いアンソニー・ピム教授の翻訳演習で、翻訳メモリを使うのとゼロから人力で翻訳するのとではどちらが速さと質の面で優れているかを実験を通じて検証するなど、仕事をしていくうえで多くのヒントをいただきました。

また授業で学んだことと同じくらい、MIISの人脈が仕事に活きています。翻Samson Center訳をしていると、どうしてもわからない表現がときどき出てくるのですが、それを同じ言語のプロとして仕事をしている元クラスメートに尋ねられるというのは心強いです。フェイスブックやリンクトインのネットワークを通じて求人情報もよくシェアされるので、今後のキャリアを考えるうえで参考にしています。

―学生時代は、どんなことに力を入れて過ごされていましたか。

一番頑張ったのは修士論文の執筆です。私が執筆した論文は、選んだ作品の一部を翻訳し、それに理論的考察を加えるというスタイルのものです。翻訳家としての芸域を広げるために留学したので、翻訳する作品にはアメリカのインディーズ作家のファンタジーを選びました。一般科目を履修するかたわら、半年程度で論文を書き上げるのは大変でしたが、担当していただいた先生から細かなご指導をいただき、自分の翻訳スキルの足りない点を自覚することにつながりました。研究成果は教授のご紹介で日本通訳翻訳学会で発表する機会もいただき、貴重な経験になりました。

―MIIS の学生生活のなかで、一番思い出に残っていることは何ですか。

言語のプロとして活躍される教授陣やプロを目指す学生仲間に囲まれている環境を活かしたいと、在学中は日経ビジネスオンラインというネットマガジンに『ニュースで読み解く英語のツボ』という連載を書きました。たとえば有名社長が解雇されたとき、英字メディアが使ったsack/ oust/ fire/ dismiss/ dump/ ditchなどの単語を比べ、日本語では同じ「解雇」でも英語ネイティブが受ける印象はどのように違うかを分析するといった企画です。連載記事を20本書くために、同級生や卒業生、先生方にたくさんのインタビューをしたのがとても勉強になりましたし、良い思い出になりました。

―土方さんは、お子さんを連れて留学されましたが、お子さんにとって、どのような経験になりましたか。

留学時、長男は9歳、次男は5歳で、それぞれ地元の公立小学校4年生と幼稚園年長に入りました。
2人とも英語力はゼロでしたが、小学校も幼稚園もESL(英語を外国語とする生徒のための補習授業)が充実しており毎日少人数の英語レッスンが受けられたうえ、雰囲気も落ち着いていてすぐになじむことができました。放課後も夕方5時まで1時間5ドル程度で子供を預かってくれる制度もあり、おかげで夫を日本に残して“シングルマザー”としての子連れ留学でも勉強に打ち込むことができました。

私がMIISに2年生から編入したため、わずか1年弱のアメリカ滞在でしたが、子供たちには日本とは違う暮らし方、価値観があることを学ぶ貴重な機会になったと思います。

―MIIS の入学希望者のなかでも、すでに翻訳や通訳の実績がある人や、お子さんと一緒に留学をしたい人に、特にアドバイスがあればお願いします。

すでに翻訳者や通訳者として活躍されている方々は、1年間現場を離れることに対して「顧客を失うのではないか」といった不安も感じられることと思います。ただ実力が認められれば「アドバンス・エントリー」という制度を使って2年生から編入し、1年で修士号を取ることもできます。また翻訳者の方は、在学中も学業と並行して多少仕事を続けることは可能だと思いますし、私も実際に日本のクライアントとの仕事を細々と続けていました。自己流の仕事のやり方を見直してレベルアップしたり、将来につながる人脈をつくるために、長いキャリアのうち1年を投じてみるのは悪くないと思います。Monterey Beach

お子さんと一緒の留学については、お子さんが性格的に海外生活になじみやすいかどうかによって、親の負担は大きく変わると思います。私の場合は2人とも能天気な性格で「学校に行きたくない」と言われることもなく、おまけに大した病気もしなかったので、ずいぶん楽をさせてもらいました。いずれにせよモントレーは治安もよく、人も穏やかで、子連れ留学をする地域としては強くお勧めできます。