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卒業生インタビュー【田中心一郎さん】

今回は、2014年にMIISを卒業されたあと、通翻訳者としてご活躍中の田中心一郎さんにお話を伺いました。

◆はじめに、MIISの修士課程で学ぼうと思ったきっかけを教えていただけますか。

MIISに入学したきっかけは国際基督教大学で通訳や翻訳の授業を受けていて、二つの言語を行き来する感覚がパズルを解くように面白く、仕事にできたら楽しいだろうと思ったのが一番のきっかけです。また、MAを取得していると仕事を得やすいだろうという損得勘定もありました。

卒業後は、主にどのようなお仕事をされていらっしゃいますか。

卒業後はまずシリコンバレーの法律事務所で10か月ほど特許翻訳をしていました。先輩に勧められたというのもありますが、将来を考えたときに特許翻訳の知識は必ず役に立つと考えたのが決め手です。OPT(Optional Practical Training)による米国での1年間の就労ビザが出るので活用しました。将来的にフリーランスを目指していたので、ビザが切れる前に退職し、日本に帰ってフリーランスになりました。

MIIS在学中にフリーで仕事をするための下準備をしていたので、大きな不安はありませんでした。まず、翻訳と通訳の授業をまじめに受け、先生やクラスメートから信頼を得ること、次に企業リサーチのインターンで卒業後も稼げる収入源を確保すること、そしてMIISでの就活やATAなどに参加して得たエージェントなどの連絡先や情報を活用しました。また、MIISのキャリア相談を行っていたジェフさん(現在は退職)と毎週のように会っていました。LinkedInのプロフィールの書き方や履歴書の書き方、キャリア形成など様々なことを教えていただきました。とにかくコネクションを作っていくことは今も実践しています。

コロナの影響が大きくなる直前には、他国の大使と厚労省との会談の通訳を担当し、対面での通訳も多かったのですが、コロナ禍で急速に仕事が減ったのを覚えています。2020年の5月はキャンセルが相次ぎ一件も通訳の仕事がありませんでした。仕事が減った分は翻訳や字幕の仕事を受けていました。

徐々にオンライン通訳の案件が増え、今ではコロナ以前と同程度に安定的に仕事が来ています。2018年には東京スタートアップ・ゲートウェイ(公的なスタートアップ企業の支援プログラム)に参加し、オンライン通訳プラットフォームの開発も考えていたので、リモート通訳に移行することに抵抗は一切ありませんでした。初期のリモート案件として多かったのはGAFAMなどで知られるIT系の通訳です。IT関連のガジェットが好きで、特許翻訳もしていたので、IT関連の通訳としてエージェントからも信頼されるようなりました。そこから、徐々にほかの分野の製薬系や法関係の仕事も依頼が来るようになっています。OJTのように仕事を通じ学ぶことも多く、日々勉強に努めています。

MIIS で学んだことが、いまお仕事にどう活かされているか、お聞かせください。

通訳や翻訳の技術については当然毎日の仕事に活かされています。最近退職されたターニャ・パウンド・ウィリアムズ先生から学んだ日英特許翻訳については、そのまま卒業後の就職先で特許翻訳者として活かすことができました。フリーになってからも技術系や法律関係の仕事で文書を読む際などに活かされています。

他にも、アメリカの文化や言葉・常識に触れられる環境、グローバルかつ優秀な英語話者が多数いる環境に身を置くことで得られた知見は、普段は意識しない場面で役に立っています。メールの書き方、クライアントとの接し方、距離感、こういったなかなか学習だけでは体得できない部分が補えたのは大きな収穫でした。

MIISで一番意識したことが仲間を増やすことです。友達を増やすということでもいいでしょう。ATAの会議にも毎年参加していました。MIISのTILMに来る方は全員が通訳や翻訳を志す仲間なので、今でも仕事の打診を互いにしていますし、MIISの先輩や同級生は仕事を紹介しあっています。僕の場合はほかのMBAやTESOLなどにも友達がいて、そことのつながりも、色んな仕事につながっています。当時のルームメイトの実家が翻訳会社を経営しており、そこの仕事は今でも受けています。

修士論文の口頭試問に合格!

MIIS の学生生活のなかで、一番思い出に残っていることは何ですか。

追加費用のかからない範囲で授業をできるだけ受けていたら、修士論文を見てくださっていたコルドバ先生に授業を減らさないと担当できないと言われたのも今ではいい思い出です。忙しい中対応してくださり、とても感謝しています。

色々ありましたが、一番思い出深いのはモントレーからサンフランシスコまで200kmほどの道のりを80ドルの自転車でルームメイトと1週間かけて往復したことでしょうか。全身筋肉痛になり、広大なアメリカを体感できました。道中トラックを運転する年配の女性に山1つぶん相乗りさせてもらったり、誤って私有地に入り、番犬に襲われそうになったり、思い出深い1週間でした。

入学希望者の方たちに、特にアドバイスがあればお願いします。

MIISに入る場合は、本気で通訳か翻訳を仕事にする覚悟で入ることになります。自分は通訳や翻訳をするべきだと本気で思っているのであれば、有意義な時間が過ごせると思います。僕自身も多少は仕事での通訳や翻訳を経験した上で入学しているので、自分なら通訳者や翻訳者になれると確信してから入学しています。入学さえすれば後は先生がなんとかしてくれるという甘い世界ではありません。

周囲を見渡せば、10年会社で翻訳などを経験してから、商社で働いたのちに勉強してからなど、翻訳や通訳の“初心者”に経験豊富なライバルが多い業界です。それを踏まえて、MIISでの修士号はライバルたちに対抗するための強い味方になります。さらに、MIISマフィアの先輩たちも助けてくれます。もちろん、最終的には仕事を得られるかは自分の力量次第です。

翻訳や通訳という仕事を僕は大好きですし、多くの方にぜひやってほしいと思っています。しかし、AI翻訳も多少は力をつけていますし、適当な実力では太刀打ちできません。十分な準備で力を蓄える、その一助としてMIISを活用すると良いのではないかと思います。そして、無事に卒業すれば就職に大変有利です。個人的には若くからフリーランスでも楽しいと思っていますが、そのためにもMIISというブランドは有効です。僕自身もMIISの後輩と仕事ができるのを楽しみにしております。

最後に一言お願いします。

先日、アメリカのベテラン通訳者の方が体調不良をきっかけに通訳業をリタイアされました(今は回復されています)。僕のほうでいくつか仕事を受け継いでいますが、この業界のバトンは脈々と受け継がれています。体は資本です。自分を大事に、長く、幸せに過ごしてください。もしよかったら通訳や翻訳をしてもらえると嬉しいです。通訳や翻訳を志す方がいれば、僕も相談に応じるなど、サポートしていきたいと思っています。この業界は強くないと生き抜けないので大変だと思いますが、個人的には人材不足を感じています。バトンはできる限り長く持ち続けますので、いつか受け取ってもらえたら嬉しいです。

活躍するMIIS卒業生

今回は、MIIS卒業生が紹介されたブログや記事などをいくつかシェアします。

★まずは、今年度卒業したエリカ・エグナーさんについての記事です。エグナーさんはJETプログラム(The Japan Exchange and Teaching Programme)を経て、MIISで翻訳通訳、ローカリゼーション管理を学ばれました。(リンク先記事は英語です。)

http://sites.miis.edu/…/wisconsin-tokyo-kumamoto-monterey-…/

★同じく、今回卒業されたチェルシー・イナバさんについての記事です。イナバさんも本学で翻訳通訳、ローカリゼーション管理を学ばれました。

★次は、2017年の卒業生、土居可弥さん(翻訳通訳専攻)のインタビューです!土居さんは現在、テスラ・ギガファクトリーのパナソニックで翻訳・通訳のお仕事をされています。

日本語版: http://jp.vo1ss.com/2019/05/19/kaya-doi/
English Ver.: http://en.vo1ss.com/2019/05/19/kaya-doi/

★そして、通訳翻訳ジャーナル』最新号にMIIS卒業生の森田系太郎さん(会議通訳専攻)と加藤智子さん(翻訳通訳専攻)のインタビュー記事が載りました。MIISでの留学生活についての対談です。ぜひご覧ください!

★5月の米大統領夫妻の来日で通訳を担当されたのは、MIIS卒業生のレフテリ・カファトさん(大統領通訳)とウッド佳世さん(メラニア夫人通訳)です。下記に朝日新聞デジタルのリンクを載せていますので、ご覧ください。素晴らしいご活躍ですね!

https://www.asahi.com/articles/ASM5S4H7TM5SUTIL01F.html

卒業生インタビュー【加藤智子さん】

今回は、2015年にMIISの翻訳通訳修士課程(MA in Translation and Interpretation)を卒業されたあと、アメリカでご活躍中の加藤智子さんにお話を伺いました。

―はじめに、MIISの修士課程で学ぼうと思ったきっかけを教えていただけますか。

もともと翻訳を志していて、イギリスで文芸翻訳の修士号を取得したあと7年間ほどフリーランスとして翻訳のお仕事をしていました。ただ、イギリスの大学院では理論が中心で具体的な翻訳の訓練はほぼ皆無だったこともあり、どこかでしっかりと翻訳のスキルをつけ直したいという思いがずっとありました。それに加えて、通訳者として活躍している友人の影響もあって、通訳にもずっと憧れのような気持ちを持っていました。

MIISで学ぶことを本気で考え始めたのは、実際に出願を決心する半年ほど前です。MIISについては方々で耳にしてずっと気になっていたのですが、とてもレベルが高く厳しいプログラムという評判だったので、自分にはとうてい無理だろうと最初からほぼ諦めていました。それが、たまたま帰省中に再会した高校時代の恩師と話していた時に、あくまで世間話としてMIISの話題を出したところ、先生に「なんだかすごくその学校に行きたそうに聞こえるけど」とあっさり言われてしまい、そのおかげで自分が自信はなくとも通訳・翻訳を本格的に学びたいと思っていることに気付くことができました。その後すぐ、実際にモントレーを訪れて逐次通訳の授業を見学させていただいて、とにかくここで2年間挑戦してみようと決心しました。

―卒業後は、主にどのようなお仕事をされていらっしゃいますか。

卒業後は、まず3ヶ月間、スイスのジュネーブにある世界知的財産機関(WIPO)で英日翻訳のフェローシップに参加しました。WIPOのフェローシップは通常、他言語から英語への特許翻訳が中心なのですが、私の卒業時はちょうど英日翻訳のプロジェクトが進行中で、運良く機会をつかむことができました。もう一つ運が良かったのは、MIISで一緒に学んだクラスメートが同じ時期に同じプロジェクトに配属されていたことです。信頼する仲間とアイディアを出し合いながら協力して翻訳に当たる喜びは、何物にも代えがたいものでした。日々の仕事の後は、これも同時期にフェローとしてWIPOに滞在していたMIISの後輩も一緒に、湖のほとりでピクニックをしたり、無料のコンサートを聴きに行ったりと、夏のジュネーブを満喫することができました。翻訳者としての経験という意味でも、友人たちとの思い出作りという意味でも、とても良い夏を過ごすことができたと思います。

現在は、シリコンバレーのGoogle本社で翻訳・ローカライゼーション関連のお仕事をしています。国際色豊かな環境で最先端の技術に関わることができ、とても刺激的な毎日です。

このように、今のところ翻訳が中心になっていますが、長期的には翻訳と通訳、両方のお仕事を良いバランスで続けていければ理想だと思っています。

―MIIS在学中、インターンシップなどはされましたか。どんな経験だったか教えてください。

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同時通訳の実習

1年目の夏休みに、日系製薬企業で通訳インターンシップを経験しました。とにかく社内通訳の皆さんの技術の高さに圧倒され、そのお仕事ぶりを見学させていただくだけでもとても有意義な体験でした。通訳インターンとして定例の電話会議での逐次通訳を担当したのですが、最初は専門用語や社内用語の羅列に戸惑うばかりだったのが、MIIS卒業生でもある先輩通訳者の方々をはじめ多くの方に助けていただいて、なんとか最後までやり通すことができました。プロジェクト全体の流れやチームの構成が見えてくるにつれて少しずつ自分の通訳が変わっていくことを実感して、社内通訳の醍醐味を垣間見ることができた気がします。担当の会議以外にも、治験に関する専門的な会議に入らせていただいたり、後半には日本本社から来られていた40人の営業チームの皆さんを前にプレゼンを通訳する機会もいただいて、本番前の緊張や不安に始まり、通訳中の集中した状態の気持ちのよさ、やり終えた後に「ありがとう」と声をかけていただく嬉しさまで、現場でしか体験できない貴重な体験をさせていただくことができました。

―MIIS で学んだことが、いまお仕事にどう活かされているか、お聞かせください。

MIISに来る以前と比べて、仕事に向かう意識が根本的に変わったと感じます。MIISに来る前までは、どこかで翻訳という作業に対して甘さがあったと思います。それが、MIISの先生方の翻訳通訳に対する徹底した客観的な厳しさやプロ意識、そして情熱を目の当たりにして、自分もまだまだ経験が浅いとはいえ翻訳者、通訳者としてお仕事をする以上は同じような覚悟を持って仕事に当たらなくてはと自然に感じるようになりました。これは、現役かつトップクラスの翻訳者、通訳者の方々を教授陣に揃えるMIISだからこそ得られたものであり、一生の宝となる経験だったと思います。

Googleでのお仕事では、特にIT翻訳の授業で学んだことが具体的にたいへん役に立っています。訳出の正確さや読みやすさ、わかりやすさを追求することはもちろん、例えば指定されたスタイルガイドに沿って翻訳するような場合に、細かいところまで限りなく100%に近づけられるように最大限の注意を払う、という基本的な姿勢を、日々の授業や課題を通してしっかりと身につけることができたと感じます。

MIIS Glog_TK_02

プラクティカムの教授やクラスメートと

―MIIS の学生生活のなかで、一番思い出に残っていることは何ですか。

なんといっても、クラスメートや仲間と過ごした時間です。通訳の授業の準備で毎日カフェテリアで練習したり、つらい時は励ましあったりして、とてもリアルで密な人間関係を築くことができました。入学前のイメージでは、一人孤独に図書館にこもるような勉強を想像していたので、こうして思いがけず大切な財産を得ることができたことをなにより嬉しく思っています。それから、通訳のプラクティカム (実習授業) で、各言語の通訳志望の仲間たちと一緒に練習会を企画したり、時にはリレー通訳という形で一緒に通訳にあたったりしたのも、とてもいい思い出です。いつかまたあの時のみんなで、ブースを超えて一緒に通訳ができたらいいな、と思っています。

―入学希望者の方たちに、特にアドバイスがあればお願いします。

私のように、興味はあるけど自信がなくて出願を迷っている、という方がもしいたら、私を含めた卒業生に連絡を取って話を聞くなり、可能であれば実際に授業を見学するなりしてとにかく行動を起こしてみることをお勧めします。自分に合う世界であれば、必ずピンとくると思います。

MIISでは、技能や知識という意味で多くを学べることはもちろんですが、何より先生方や仲間達など、同じことに情熱を持つ多くの人に出会うことができますし、そのような出会いが不安を乗り越える大きな助けになってくれると思います。まったく自信のなかった私も、いろいろな人との出会いのおかげで、今になって振り返えれば「楽しかった!」という言葉しか出てこないぐらい、最高の2年間を過ごすことができました。前向きな興味を持って足を踏み入れるのであれば、MIISでの時間は必ずや有意義なものになると思います。

 

卒業生インタビュー【ジョナサン・マイケルズさん】

今回は、2010年の卒業生ジョナサン・マイケルズさんにお話を聞きました。ジョナサンさんは、MIISの翻訳通訳修士課程(MA in Translation and Interpretation)を卒業され、現在は日本でフリーランス翻訳者として活躍されています。

―MIISに入学する学生は文系の人が多いのですが、マイケルズさんは大学で日本語だけでなく、電子工学・コンピュータ科学を専攻されたと伺っています。大学卒業後、理系の道に進むかわりに、MIISの修士課程で日本語の通訳翻訳を勉強しようと思ったきっかけを教えていただけますか。

一つ目のきっかけは大学3年と4年の間の夏のことでした。コンピューター・アニメーション制作会社のピクサーでインターンシップをしていたのですが、ある日、同期のインターンに、暇な時間の過ごし方について聞かれました。うちに帰っても週末でもピクサーでの仕事と同じようにCGモデル作りなどに励んでいた彼とは対照的に、僕は暇の大部分を日本語の勉強に充てていると答えたのですが、そのときから悩み始めました。趣味をキャリアにしようとしていた彼にとって、コンピューター・アニメーションは明らかに天職でしたけれど、自分はどうなのかなと。その何気ない世間話的な質問がきっかけとなって、高校で勉強を始めたときからすごく楽しいと思ってやがては最大の趣味となっていた日本語を仕事にできたらいいなと思うようになりました。

「一つ目のきっかけ」と書いたのは、そのときはまだどういう形態で日本語を仕事にできるか見当もつかなかったからです。「翻訳」について考えたことはほとんどなくて、あったとしても僕よりクリエイティブな人じゃないとできなさそうな文学翻訳だけであって、それ以外の翻訳は職業として存在することさえ知らなかったと言ってもいいぐらい視野になかったのです。そこでとりあえず、日本の文科・外務・総務各省が運営している、いわゆるALT(「外国語指導助手」)やCIRと呼ばれる国際交流員を自治体などに斡旋するJETプログラム(「外国語青年招致事業」)に応募してみました。同プログラムへの参加は最高5年までとなっていて、キャリアではなく別の何かへの踏み台にしかなれないのですが、受かったところで終わった後どうするか分からないまま応募したわけです。

幸い、茨城県庁にてCIRとしての配置が決まったときとそこへの出発との間に、去年のご退職まで長い間MIISの進路相談室の中心的存在となっていたジェフ・ウッドさんによる、「International Careers」というような題名の説明会が僕の大学のキャンパスで開かれました。本当にたまたま、用事と用事の間に1、2時間つぶす必要があったときにその説明会を宣伝する張り紙が目に入って、軽い気持ちで行ってみたのですが、終わった頃にはもう将来の形が見えていました。説明会の題目はある程度名目だけで、実質的にはMIISそのものについての説明会でした。職業としての翻訳やMIISの就職サポートについての説明もあって、どう始めたらいいか分からない人が翻訳の道に進むにはMIISが最適だということがよく分かりました。つまり二つ目のきっかけも、その説明会に参加してみたという、最初は何気なかったことでした。

―卒業後は、主にどのようなお仕事をされていらっしゃいますか。大学で理系を専攻したことが、どのように役立っていますか。

在宅で翻訳をやっています。形式上はフリーランスですが、今は仕事の9割以上が、特許などを扱う国連の機関であるWIPO(World Intellectual Property Organization=世界知的所有権機関)からの翻訳なので、ほとんど専属のようなものです。具体的には、今は主に「特許性に関する報告書」という、日本の特許庁にいる特許審査官が特許の出願書を見て特許になれそうかどうかの見解を書いた文書を、日本語から英語に訳しています。

その文書の内容はみんな技術的なものですが、その技術分野は、例えば自動車用の無段変速機から、線維筋痛の治療薬や紙おむつに至るまで、本当に様々です。なので大学で勉強したコンピュータ科学を直接活かせるときもありますが、そうじゃないときのほうが多いです。でも学校で勉強していない技術分野のときでも、大学で育った(というよりもともとあったから一旦その道に進んだ?)理系の頭が役立っているような気もします。

―MIIS在学中、インターンシップなどはされましたか。どんな経験だったか教えてください。

1年目と2年目の間の夏に、上述のWIPOの拠点であるジュネーブに行って、同機関で約3ヶ月間のインターンシップをやらせていただきました。ジュネーブの公用語であるフランス語がほとんど分からなくて生活面での苦労は少しありましたが、職場では、翻訳に対する熱意を共有してくれて、そして温かく接してくれる同僚・上司や、(同じくMIISからの)仲の良い同期に囲まれて、毎日が楽しかったです。

風船

誕生日の上司のオフィスを風船で埋め尽くそうと風船を膨らませているインターンたち

今やっているのとほとんど同じ仕事をやっていましたが、インターンシップでは毎日のように細かい指導をいただいて、非常に勉強になりました。直される点が週ごとに減って、特許系の翻訳に慣れてくるのを本当に実感できました。

―MIIS で学んだことが、いまお仕事にどう活かされているか、お聞かせください。

授業中やクラスメートとの勉強会で、練習に練習を重ねたり、望まれる翻訳とは何かを議論したり、具体的な用語や構文への対処法を話し合ったりすることで育んだ翻訳脳が今役に立っているのはもちろんのこと、僕の場合はもっと直接的な意味でMIISに行かなかったら今の仕事に就くことができませんでした。というのは、現状では翻訳会社を介せずに直接WIPOから翻訳仕事を受けられるのは翻訳の修士課程を修了している人だけだと聞いたと思いますし、MIISの卒業生がそうしている人の結構大きな割合を占めている気がします。

また、翻訳そのもの以外にも、お得意先とのやり取りでの留意点や、見積書や請求書の作成の仕方など、翻訳のビジネスを運営する上で必要になる諸々の付随業務についても学んで練習したおかげで、より自信を持って卒業直後にフリーランスに踏み切ることができました。

―MIIS の学生生活のなかで、一番思い出に残っていることは何ですか。

これは難しいなー。やっぱり濃い2年間だったので、思い出はいっぱいあります。お好み焼きパーティーや天ぷらアイスパーティーなど、クラスメートのアパートでの数々のパーティーや、追い出しコンパでジャスミン役になってアラジン役の女性のクラスメートと一緒に『ホール・ニュー・ワールド』を披露したとき、数人でATA(American Translators Association=米国翻訳者協会)の年次会議に出席するためニューヨークに行ったとき、ブースメートの都合が急に悪くなった先生から大きな会議での通訳の補欠を頼まれて、緊張のあまり、代わりが見つかったからいいという旨の電話が来るまでの半日間食べ物を一切口にできなかったとき、ドイツ語プログラムの学生との合同通訳練習など……

お好み焼き

T&IJ ’10のクラスメートと

でも敢えて一番思い出に残っているエピソードを選ぶとしたら、ちょいダメな学生みたいに聞こえるかもしれませんが、日本語プログラムの学生だけじゃなくて翻訳通訳の学生全員(かな?)で受講する講義があって、ある日のその講義の直前にクラスメートの一人が少し体調を崩して休むことにしたから、全員一致で一緒に休むことにして、1時間だけ多忙のなかのゆったりとした時間を一緒に過ごしたときです。もちろんサボりはいけない、とここで書いておきますが、今も健在な、クラスメート同士の絆の強さを実感できたひとときでした。

―入学希望者の方たちに、特にアドバイスがあればお願いします。

入学までの道のりは人それぞれ過ぎて広く当てはまるアドバイスができる自信がないので、もう入学した前提でのアドバイスです。

翻訳はある程度一人で集中してやる必要があるかもしれませんが、お互いの草稿の校正や改善提案ができますし、何よりも通訳やサイトラ(サイト・トランスレーション=紙や画面上の文章を読んで口頭で訳すこと)は、2年間の間なるべく沢山クラスメートと一緒に練習したほうがいいです。お互いから学べることがたくさんあるはずですし、そして一生の友達になるかもしれません。

以上です!ここまで読んでくださって、お疲れ様でした!そしてありがとうございました。

卒業生インタビュー【森田系太郎さん】

今回は、2012年に会議通訳修士課程を卒業された、森田系太郎さんにお話を伺いました。

―森田さんはアドバンスエントリー制度を利用してMIISに2年目から入学されましたが、まず、MIISに留学しようと思ったきっかけを教えていただけますか。

MIISには2011年の8月に入学しました。遡ること同年3月、立教大学で博士論文を提出し、9月に博士号取得予定でした。卒業後にそのまま環境社会学者としてアカデミアに残るべきか、それとも新たなキャリアとして関心を抱いていた通訳者になるべきか、岐路に立たされました。“To be or not to be an interpreter”ですね。そして、結局、後者を選択しました。

理由は2つ。1つ目は、もちろん、プロの通訳者になるための訓練を受けたかったことがあります。立教大学には修士・博士課程を通じて6年半在籍しましたが、ともに社会人向けコースで授業が夜間に開講されていたため、昼間はフリーランス翻訳者として働いていました。その際、短期間ですが通訳学校に通っていたこともあり、たまに通訳のご依頼もいただいていました。しかし、付け焼刃では太刀打ちできず。いつか、十分な時間を確保して体系的に通訳訓練を受けてみたいと思っていました。

2つ目は、博士論文を提出した2011年3月に生じた東日本大震災です。当時、私の故郷である仙台に母親が1人で住んでおり、水道・電気・ガス・食糧供給がストップするなかで、母を故郷の鳥取に避難させなければならない状態になりました。このような経験のなかで、「人生一度きり、だから常にやり残したことはないようにすべきだ」「アカデミアはとりあえず経験したから次は通訳を勉強してみたい」という思いが芽生えてきたのです。

「MIIS時代にブースで同時通訳を練習中の筆者」

MIIS時代。ブースで同時通訳を練習中

思い立ったら吉日。早速、通っていた通訳学校「土曜学校」の校長で、元MIIS教員でもある中山貴子先生に相談したところ、MIISを勧められ、すぐに願書を提出。その際にアドバンスエントリー制度という2年次に編入できる制度があることを知り、受験することにしました。受験に当たってはTIコース(Translation & Interpretation[翻訳通訳]コース:逐次通訳と翻訳がコア科目。同時通訳も履修可能)を考えていましたが、当時、日本語学科主任でいらっしゃった武田珂代子先生(現・立教大学教授)にCIコース(Conference Interpreting[会議通訳]コース:同時通訳と逐次通訳がコア科目。翻訳も履修可能)を勧められ、後者で受験することに。予期せぬ航路変更でしたが、結果として合格に至りました。武田先生に勧められて偶然、CIコースに進んだわけですが、そこで同時通訳のスキルを学べたことは現在の職場でとても役立っているので、その偶然は必然だったのかも知れません。ということで、中山先生、武田先生には今でも足を向けて寝ることはできません(!)。

なお、アドバンスエントリー制度については、1年で修了できるため、時間・資金面でメリットがあります。ですが、アメリカ生活に慣れながら、通訳と翻訳を基礎からじっくりと学べる、という点では、2年間かけて修了することにもメリットがあると考えています。

―現在は、どのようなお仕事をされていらっしゃいますか。

アメリカ東海岸の製薬企業で通訳・翻訳の仕事に携わっています。通訳が業務の95%以上を占めており、同時通訳・逐次通訳の両方のスキルが必要とされます。職場では、医薬品開発のための臨床試験に関するトピックのみならず、その前の段階で行われる基礎研究や非臨床試験に関する会議を担当することもあります。また、臨床試験が終了し、当局から承認されるとその製品は市場に出る(「上市」)わけですが、上市後に行われる試験に係る会議や、セールス・マーケティングの会議もあります。他には、薬事や製薬系IT、ファーマコビジランス(PV)、医療機器、人事、法務関連の会議の通訳を担当することもあります。

担当する会議のトピックが多岐にわたるので、とても刺激的な毎日を過ごしています。逆に言えば、日々勉強の毎日です。MIISを卒業したから勉強はオシマイ、という訳ではなかったですね、残念ながら(笑)。半年ほど前、MIIS・1年生の日英通訳の実践練習をお手伝いする目的で、「Becoming the Interpreter」という発表をさせていただきましたが、発表の主旨は「理想の通訳者になるためには、MIISで身に付けたことを土台とし、卒業後も、現場を踏みつつ、努力し学び続ける必要がある」というものでした。

―MIIS で学んだことが、いまお仕事にどう活かされているか、お聞かせください。

逐次通訳については、ノートの取り方を学べたことは大きかったですね。また「ノート取り」と「聞き取り」とのバランス、訳出時のデリバリー(「えー」「あー」といった耳障りなfiller語を減らすなど、クライアントに聞きやすく訳出する等)についても、授業のなかで厳しく指導されました。こういったことは、今の仕事でとても生かされていると感じています。

同時通訳については、ご存知のとおり「聞きながら話す」というアクロバティックな(!)行為ですが、そのスキルを実践的に学ぶことができました。また、文を短く切って訳出する先入れ先出し法(First In First Out;FIFO)法――過剰な使用は聞きづらい――の適切な使用法や、話すスピードが速い話者を攻略する術も教わりました。

上記に加え、ノン・ネイティヴ・スピーカーの「訛り」対策や、授業にゲストを呼んでの実戦形式での練習、また1、2年生合同でのデポ(デポジション;証言録取)通訳の模擬演習なども、総合的には今の仕事に役立っていると思います。加えて、通訳者としての倫理、マナーを学ぶ授業もありましたが、そのなかで「プロの通訳者とは何者か」「プロの通訳者としてどう振舞うべきか」を現場に出る前に考える機会があったのも有難かったですね。

またMIISの2年次では、CIとTIの学生が参加資格を有する「プラクティカム」と呼ばれる通訳演習の授業があり、そこでは他言語学科(中国語・ロシア語・ドイツ語・フランス語・韓国語・スペイン語)の学生と共同で、リレー通訳(例:中国語→英語→日本語)などを経験することができました。ちなみに、プラクティカムを通じて、日本語学科以外の友人ができたことは、一生の財産となっています。今の仕事では出張で国内外に出掛けることも多いのですが、出張先にMIISの友人がいる場合は必ずコンタクトを取り、旧交を温めるようにしているんですよ。

―MIIS の学生生活のなかで、一番思い出に残っていることを教えてください。

このインタビューに登場する皆さんが口を揃えておっしゃるように、やはりクラスメートとの練習でしょうか。授BeachHSR業の時間は限られていますので、やはり学生時代に力を伸ばすためには授業外でのクラスメートとの練習が上達の鍵となります。「サムソン」と呼ばれる食堂は学生の溜まり場にもなっており、どの学科の学生も集まって勉強しているのですが、やはり一番遅くまで残っているのは通翻訳を勉強している学生ではないでしょうか。多分に漏れず、私も夜遅くまでサムソンに残ってクラスメートと練習していました。ちなみに、学期中は授業と練習に追われ、観光地として有名なモントレーを観光する時間はほぼゼロでした。卒業試験が終わったあと、ようやく観光を始めたくらいでした(笑)。

―入学希望者の方たちに、特にアドバイスがあればお願いします。

通翻訳者になりたいと真剣に望まれているのであれば、ぜひMIISの門を叩いてみてください。業界でもMIIS卒業生の評判は非常に高いものですし、MIISを通じてクラスメートのみならず、他言語学科の学生、先輩・後輩たちとのネットワークを築くことができます。また2020年には東京オリンピックが開催されます。それによって通翻訳の需要が高まると考えられているので、今後の成長産業、ということで、キャリア面でもメリットがあると思います。

冒頭でも述べましたが、人生一度きり。“To be or not to be an interpreter/translator”――ハムレット並みに迷っていらっしゃるのであれば、思い切ってMIISでチャレンジしてみませんか?

卒業生インタビュー【トーマス・ホワンさん】

今回は、2010年の卒業生トーマス・ホワンさんにお話を聞きました。トーマスさんは、MIISで翻訳・ローカリゼーション管理(MA in Translation and Localization Management)を専攻され、現在は翻訳会社のプロジェクト・マネージャーとして活躍されています。

―まず、MIISの修士課程で翻訳・ローカリゼーション管理を勉強しようと思ったきっかけを教えていただけますか。

cropped-Monterey-Harbor.jpg私は高校のときに日本語の勉強を始め、大学では日本語を専攻しました。大学卒業後は専攻をぜひ活かしたいと誰でも考えると思いますが、私もまず翻訳関連の仕事を探しました。専攻といちばん直結した仕事は翻訳だと思ったからです。いろいろ調べている途中で、大学で開催されたキャリアフェアにMIISから代表が来ていたので、話を聞いてみました。さらにMIISについて資料を集め、MIISキャンパスを実際に見学したあと、家族やキャリアアドバイザーの勧めもあり、入学を申し込みました。MIISで勉強することが、将来キャリア探しに役立つはずだと考えたからです。

―ご卒業後は、翻訳・ローカリゼーションの会社でプロジェクト・マネージャーをされていると伺いました。どのようなお仕事か、教えていただけますか。

簡単にいえば、クライアントから来たファイルを受け取り、そのファイルの翻訳を責任を持って完成させてクライアントに納品する担当者、ということでしょうか。

IT時代のいま、エンドユーザーは迅速で簡単に情報を得ることを求めています。このためローカリゼーションでは、翻訳者やエディターはただワードファイルで作業するだけではすまなくなってきました。ほとんどの場合、ウェブサイトのアップデートの繰り返しや、モバイル用のアプリについても対応しなければいけません。それから、Flashバナーや動画など、マルチメディアコンテンツも激増しています。たった2分の字幕つき動画に対して、5~6人以上が関わることもあります。 翻訳対象の言語が増えれば、人数はさらに増えます。

そういったなかでプロジェクト・マネージャーは、プロジェクトで何がカバーされるか、何が期待されるかを、関係者全員に確実に理解させなければいけません。そして、クライアントとベンダーとコミュニケーションを取り、翻訳関連の問題を解決し、担当プロジェクトが必ず納期通りに完了するように、プロジェクトの各ステップの進行状況を常に管理することが必要です。

それからプロジェクト・マネージャーは、コミュニケーションをはかり、プロジェクトの進行を管理するだけでなく、何が最適な手順なのかいつも考えながら、プロセスの改善につとめなければなりません。品質を犠牲にしないでコストを削減することはできるか。要求条件がいくつか課せられているなかで、コストパフォーマンスが最適なアプローチは何か。どんな問題が起こりうるか、それを防ぐためには何をすればいいか。新規クライアントとのキックオフ・ミーティングや、既存のクライアントとの現行プロジェクトなどで、プロジェクト・マネージャーは、こういった問いに対応しなければなりません。この仕事の楽しさは、こういった新しい課題が毎日待ち受けていることですね。

―在学中はインターンシップなどはされましたか。どんな経験だったか教えてください。

MIISの1年目が終わった夏休み、東京の翻訳会社でインターンとしてつとめました。翻訳ツールmiis_campus_securityを使った作業やQA(品質管理)、プロジェクト管理などに、このときはじめて関わりました。プロジェクト・マネージャーのQA作業を手伝ったり、翻訳メモリの整理をしたり、依頼メールの送信・受信を管理したりといった業務が大半でした。

2年目は、教授から紹介されたインターンシップの仕事をさせていただきました(MIISの教授はすべて現役のプロフェッショナルです)。翻訳エージェンシーの仕事で、翻訳管理システムやプロジェクト管理について、さらに経験を積むことができました。QA や翻訳メモリのアップデートを手伝ったほか、プロジェクトの管理を最初から最後まで任されました。おかげで、学校で習ったことを活かすと同時に、実際の現場でどのようにローカリゼーションが進行するのか、学ぶことができたと思っています。

―MIIS で学んだことが、いまお仕事にどう活かされているか、お聞かせください。

ほかのTLM(翻訳・ローカリゼーション管理)専攻の仲間と、実際のクライアント案件や翻訳プロジェクトの管理作業をする機会に恵まれました。翻訳者を探し、翻訳料金を交渉する。予算のバランスを取りながら、プロジェクトがスムーズに進むよう、関係者全員とコミュニケーションを取る。どれも私にとってははじめての経験でした。新人ならではの失敗もたくさんしましたが、TLM専攻の学生としてもっとも成長した時期は、このプロジェクトを担当していたときだったという思いが強いです。このときに学んだことで、いまの仕事でも活かせていることはたくさんあります。

MIISで翻訳を学んだことも、いまの仕事に大きく役立っています。最適な国際化とは何か、クライアントに説明するときに、言語面からプロジェクトを見ることができるからです。翻訳者の立場に立たなければ、翻訳関連の問題を説明したり、予測したりすることは難しいでしょう。

―MIIS の学生生活で、いちばん思い出に残っていることは何ですか。

Samson Centerいちばん印象に残っている大切な思い出は、友だちのことです。1年目はTI(翻訳・通訳)専攻だったのですが、日本語プログラムは10人ぐらいでした。みんな、とにかくいつでも一緒にいましたね。サムソンセンター(カフェテリア)に入ると、通訳などを練習していたり、翻訳の宿題のピアフィードバックをしているクラスメートに必ず会いました。こういった時間がいちばん楽しかったですね。2年目からTLM専攻に変えたあとは、あまり会えなくなってしまったので寂しかったです。

―入学希望者の方たちに、特にアドバイスがあればお願いします。

まず、いろいろな意見を受け入れられる柔軟な心を持つことです。MIISでは、自分の翻訳や通訳などに対して、先生や仲間からたくさん批評を受けることになります。こわいな、と思うかもしれませんが、そういった率直なフィードバックをもらわなければ、あれほど多くを学ぶことはできなかったと私自身は痛感しています。クラスメートはそれぞれの得意分野に基づいたフィードバックをしてくれます。それをしっかりと受け止めることが、ずっとあとになっても活かせるような、非常に貴重な財産になると思います。

それから、ときどきはゆっくり休むことです。何時間もかけて課題をやったり、試験勉強をしたりして、ストレスを抱えることも多いでしょう。だからこそ、大事なときに実力が発揮できるよう、心も体も必ずゆっくり休憩させることが大切ですね。

卒業生インタビュー【ダニエル・ドラモンドさん】

今回は、今年MIISの翻訳修士課程を卒業されたあと、翻訳者としてご活躍中のダニエル・ドラモンドさんにお話を伺いました。

―はじめに、MIIS を選ばれた理由を教えていただけますか。

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MIISキャンパスで

MIISの名前を初めて聞いたのはJETプログラム(語学指導等を行う外国青年招致事業)に参加していたころです。その後もMIISのことは常に頭の片隅にありました。でも翻訳を仕事として本格的にやってみたいと思ったのは、アメリカに帰国してから数年経ったころです。日本語と英語の翻訳プログラムがある学校をいろいろと探して、最終的にMIISとケント大学に絞り込みました。どちらも素晴らしいですが、MIISの国際性を重視した姿勢や雰囲気が自分には一番合っていると感じました。

―卒業後はどのようなお仕事をされていらっしゃいますか。

カリフォルニア州サンタクララにあるチェン・ヨシムラ法律事務所で特許翻訳者として働いています。肩書きの通り、仕事のほとんどは日本語から英語への特許翻訳です。私たちの仕事の最終的なゴールは、クライアントが申請している特許出願が許可されることですので、時には単なる翻訳の範ちゅうを超えたサポートを提供することがあります。特許申請が通る可能性が高まるように、基準に照らしあわせて申請書を多少調整しなくてはならないことがよくあります。

―MIIS で学んだことで現在の仕事に活かせていることを教えてください。

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クラスメイトと

特に役立ったと実感している点が3つあります。私は翻訳専攻でしたが、ローカリゼーションのクラスをたくさん取りました。いまの職場で翻訳ソフトウェアを使っているので、特に翻訳支援ツールの実習ができたことに、感謝しています。それから、ラッセル秀子先生の翻訳のクラスで長めの文書を翻訳する機会に恵まれて良かったと思っています。翻訳で使用する用語、スタイルなどを長い文書の翻訳で統一を図りながら取り組んだことは、20ページ以上に及ぶことが多い特許翻訳をするのに役立っているからです。そして、ターニャ・パウンド先生の特許翻訳クラスですね。特許の長い文章をどのように読解して、うまく区切りながら翻訳するかを学んだことは、いま仕事で特に一文が長くて理解が難しいような文章を訳さなくてはならないときに、当然のことですが役立っています。

―学生時代はどんなことに力を入れて過ごしていましたか。

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WIPOインターンシップの初日

一人で勉強やリサーチをして過ごす時間も長かったですが、クラスメイトともよく一緒に勉強しました。特に翻訳の宿題についていろいろ意見を交わしたことはとても役に立ちました。議論を通して他の人の解釈を聞いたり、あるフレーズが何を意味し、どのように訳すか、といったことを話し合ったりしたのは、とてもいい経験でした。

―学生生活のなかで一番思い出に残っていることは何でしょうか。

一番記憶に残っているのはクラスメイトと過ごした時間です。サムソンセンター(カフェテリア)などキャンパスで一緒に勉強した時間だけでなく、ハイキングに行ったりランチを一緒に食べたりといった、自由時間があまりないなかで一緒に楽しく過ごした貴重な時間が印象に残っています。MIISで過ごした2年間の間に築いた友情をとても大事にしていますし、これからも機会があればMIISでできた友人と交友を温めるのを楽しみにしています。

―入学希望者にアドバイスがあればお願いします。

同期の神野裕史さんもこのブログのインタビューでお話しされていたと思いますが、入学を検討されている方は、MIISを実際に訪れてみて翻訳や通訳のクラスを見学することをおすすめします。自分が願書を出しているときにそういった機会があればよかったと思います。そうしていたら、クラスがどんな感じであるとか、入学前に何を準備しておけばいいかもっとよく分かっていただろうと思います。2番目のアドバイスとしては、当たり前に聞こえるかもしれませんが、実際の仕事と同じように厳しい締め切りのある翻訳の経験を積むことです。そうすることで翻訳者の仕事がどういったものか理解できると思いますし、自分が実際に翻訳者に向いているか見極めるのにも役立つと思います。

卒業生インタビュー【デュボワ都さん】

今日は、2011年にMIISを卒業後、日本で翻訳者としてご活躍されているデュボワ都さんにお話を伺いました。

―今回はお時間をいただき、ありがとうございます。まず、MIIS入学に至るまでの経緯を教えていただけますか。

米国の大学を卒業後、OPT制度を利用してサンフランシスコの語学学校で働いていましたが、将来就労ビザを取得するためにはもっと専門性の高い仕事に就く必要があると気づき、大学院進学を考え始めました。ベイエリア周辺の大学院のプログラムを調べていたところ、MIISのウェブサイトでオープンキャンパスがあることを知り、当時住んでいたイーストベイからバスを乗り継いで見学に行きました。翻訳の経験がなくても基礎から学べること、現役の翻訳者の授業を受けられることに魅力を感じ、すぐに出願の準備を始めました。

―卒業後は、主にどういった分野の翻訳のお仕事をしていらっしゃいますか。

最初の仕事は、カリフォルニアにある特許事務所での社内翻訳者兼コーディネーターでした。その後、帰国が決まったのをきっかけにフリーランスに転向しました。

内容としては、一番多いのが特許関連の文書の日英翻訳です。その他にプレゼン資料や広告など、ビジネスやマーケティング分野を扱うこともあります。miis_campus_security

―いまのお仕事で、MIIS で学んだことがどう役立っているか、お聞かせください。

何よりも、特許、技術、医薬、リーガルなど幅広い分野の翻訳を学べたことが役に立ちました。大学までいわゆる文系で、理系の文章に触れる機会は少なかったのですが、課題をこなしていくうちにそれまでの苦手分野への抵抗が少なくなってきたように感じます。

MIISでできるネットワークも、この学校の大きな強みだと思います。卒業後、先生方やクラスメート、キャリアセンターのアドバイザーを通して仕事の打診が来ることも珍しくありません。私は選択科目でローカリゼーションやビジネスのクラスを取っていたので、日本語以外のプログラム専攻の学生と知り合う機会がありました。卒業後、そのうちの何人かが多言語プロジェクトのPM(プロジェクトマネージャー)になり、和訳を担当しないかと声をかけてくれたこともありました。

―学生時代は、どんなことに力を入れて過ごされていましたか。

1学期目はTLM(翻訳ローカリゼーション管理)のコースでしたが、翻訳をもっと学びたいと思い、次の学期からは翻訳のみのコースに移り、日英・英日翻訳のクラスはすべて取りました。日英の授業は私だけ非英語ネイティブということもありましたが、その分とても鍛えられました。

―学生生活のなかで、一番思い出に残っていることは何ですか。

why_monterey_instituteひとつだけ選ぶのは難しいのですが、クラスメートに恵まれたことでしょうか。毎日のように、カフェテリアで一緒に勉強していたのを覚えています。サイトトランスレーションや翻訳の授業では、お互いの翻訳やパフォーマンスを評価することが多く、自分が発表するときには不安になることも多かったのですが、お互いを尊重しあう、温かい雰囲気のクラスだったので救われました。

―MIIS に入学を希望されている方たちに、特にアドバイスがあればお願いします。

これは私が入学したときにある先輩からもらったアドバイスなのですが、分野を限定せず、英語と日本語の両方でたくさん読むこと。

また機会があればキャンパスの見学や、入学希望者向けのイベントに参加してみるのもいいと思います。特に後者は日本でも開催されるので、留学を迷っている方は気軽に参加してみてください。

卒業生インタビュー【マッケルビー麻衣子さん】

今日は、2009年にMIISを卒業後、日本で通訳・翻訳者としてご活躍されているマッケルビー麻衣子さんにお話を伺いました。

―今日はお忙しいなか、ありがとうございます。まず、マッケルビーさんが MIIS に留学を決めた理由を教えていただけますか。

帰国子女で英語が得意だったこともあり、中高生の頃から通訳者という職業もひとつの選択肢として視野に入れていました。大学では、通訳の授業を受け、簡単な通訳の仕事を経験したことで、通訳者になりたいという気持ちが固まっていきました。

働きながら日本の通訳学校に通うことも検討しましたが、通訳の訓練に集中したかったこと、国際的な感覚をもっと身につけたかったこと、そしてプライベートな理由として、当時付き合っていた、現在の夫の近くに住みたかったことなどもあり、MIISへの留学を決意しました。

―卒業後は、主にどのようなお仕事をされていらっしゃいますか。

卒業してすぐに、栃木県にある本田技術研究所四輪R&Dセンターで、社内通訳翻訳者として働き始めました。当初は購買部門に配属されていましたが、1年後に希望が叶って、研究開発部門の通訳チームに移りました。どちらにおいても、多くの経験を積ませていただき、プロの通訳者としての自信をつけることができました。

そのさらに1年後には、東京に拠点を移し、フリーランスとして独立しました。依頼される内容はITと製造が多いですが、他分野の仕事も依頼されれば、積極的に受けています。また、昨年夏に出産して、いまは育児とのバランスを計りながら仕事をしています。受けられる仕事の量が減った分、ひとつひとつの仕事に、丁寧に取り組むように努めています。

―MIIS で学んだことが、いまお仕事にどう活かされているか、お聞かせください。

winter_graduation_1MIISで叩き込まれた通訳の基礎は、仕事で日々活きています。例えば、通訳においては、言葉だけではなく、メッセージも追うこと。聞き取りやすさも意識すること。逐次通訳における記憶とノートテイキングのバランス。同時通訳におけるさまざまな戦略。先生だけでなく、勉強の仕方や通訳・翻訳における戦略などは、クラスメートからも学ぶところが多かったです。

また少し質問から外れますが、MIISの先生や同窓生の方々には、いまでも仕事でお世話になることが多いです。在学時の先生やクラスメート、1年上の先輩や1年下の後輩はもちろん、在学期間が重なっていない方でも、同じ学校の出身者ということで親しくしていただいています。こうしたMIISを通してのご縁も、仕事で活きています。

―学生時代は、どんなことに力を入れて過ごされていましたか。

MIISに行くことはわたしにとって大きな投資だったので、それに見合うだけの何かを得なければならないと、とにかく実践的なスキルの取得に打ち込みました。ひとつひとつの授業に対して、時間の許すかぎり予習をして、授業の中ではなるべく発言するようにしていました。

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学校主催のスキー旅行でレイクタホへ

また、クラスメートとスタディーグループを組んで、カフェテリアのSamson Centerや空き教室で、毎日のように練習していました。みんなとても意欲的で、互いに助け合う風潮があり、本当に恵まれていたと感じています。

―MIIS の学生生活のなかで、一番思い出に残っていることは何ですか。

スタディーグループで何時間も一緒に勉強していたこと、そして勉強の合間には、友達と美味しいものを食べながら息抜きをしていたことが記憶に残っています。特に近くの中華料理店、Full Moonにはよく行っていました。日本語ができる女性がいて、行くたびに癒されていました。また1学期に数回は、少し奮発してMonterey Fish Houseにも行っていました。シーフードが美味しいお店なので、入学される方もされない方もぜひ行ってみてください(笑)

―MIIS に入学を希望されている方たちに、特にアドバイスがあればお願いします。

MIISの授業は、受け身だと得られるものは限られます。授業に対して、積極的に予習し、参加してこそ、身につくものが多いです。またクラスメートからも学べることは多いので、スタディーグループを作って互いに高め合えると、とても有意義な学生生活が過ごせると思います。

卒業生インタビュー 【神野裕史さん】

今回は、今年MIISの翻訳通訳修士課程を卒業されたあと、アメリカで通訳・翻訳者としてご活躍中の神野裕史さんにお話を伺いました。

―今日はお忙しいなか、ありがとうございます。はじめに、 海外の大学院で通訳と翻訳を学ぼうと決めた理由を教えていただけますか。

一番の理由は、通訳・翻訳技能を身につけるには時間をかけて訓練を積む必要があるだろうと思ったからです。2年間という時間を通訳・翻訳の勉強に投資して、実力をつけたいと思ったからというのが最大の理由でした。

MIISで学ぶ前は、財団法人で日本語を母語としない方を対象としたBJTビジネス日本語能力テストの普及業務を担当していました。受験者の中には東アジア・東南アジアの日本語通訳・翻訳者の方も多く、通訳・翻訳の仕事に興味を持ちました。

そこで、日本で通訳学校に1年ほど通い、非常に楽しかったのですが、会社から帰った後、夜21時くらいから同時通訳の練習をすると頭が興奮して眠れなくなるし、朝起きてから出社までの間はゆっくりしたいし、満員電車で勉強するのもつらいし…と、勉強時間の確保が大きな課題でした。仕事と学業を平行させていくのは私には合わないのだろうと気づき、しっかり勉強できる環境を探して出会ったのがMIISでした。

―神野さんは今年5月に卒業されたあと、アメリカで就職されたと伺いました。どのようなお仕事か、お聞かせください。Jinno 1

ソフトバンクが買収した携帯電話通信事業者のスプリントのネットワーク部門で、Global Communications Managerとして働いています。現在の主な業務は、ソフトバンク・スプリント役職員のコミュニケーションを通訳・翻訳業務を通じてサポートすることです。ネットワーク品質や効率を高めようとソフトバンクとスプリントが一体となってイノベーションを起こしていくビジネスの最前線に立ち会えるのは、非常に刺激的です。

―MIIS で学んだなかで、「現場で活かせている」と実感できるのは、どんなスキルでしょうか。

最も大きいのは、なんと言っても通訳・翻訳の実務能力だと思います。通訳にせよ、翻訳にせよ、意味を捉え、別の言語で伝えるのは、MIISでの訓練の量と質、両方必要だったと感じています。Jinno 2

通訳者・翻訳者としてのコアスキルは意味を捉え、別の言語で伝えられることだと思いますが、翻訳であれば「誤字脱字を見逃さない」「パソコンを使いこなす」、通訳であれば「必要な声のボリュームで話す」「座る位置、立つ位置を意識的に選ぶ」などの周辺知識、コンピテンシーも含めて学習できるのがMIISの良かった点だと思います。

―学生時代はどんなことに力を入れてすごしていましたか。Jinno 3

あまり楽しい大学院生活に聞こえないかもしれないのですが(笑)、クラスメートとの練習です。入学前に読んだマルコム・グラッドウェルの本に「何かに習熟して一流になるのに、人は1万時間の積み上げが必要」と書いてあったので、2年間で1万時間は無理にせよ、なるべく技能を積み上げるために時間を割こうと思っていました。

―学生生活で一番思い出に残っていることをお聞かせください。

1年に1度、通訳を学んでいる全言語の学生が逐次通訳をMIIS・モントレーのコミュニティ全体にお披露目するFall Forumというイベントがあります。イベントの企画・実行にかかわったことで、通訳をイベント主催者の視点から考えることができたほか、他言語の学生たちと一緒に働く機会が持て、非常に勉強になりました。Jinno 4

―それでは最後に、MIIS入学希望者にアドバイスがあればお願いします。

入学前に2点お勧めしたいことがあります。まず1つ目ですが、サイトトランスレーションと逐次通訳の授業を見学されることをお勧めします。教授だけでなく、バイリンガルのクラスメートに自分のパフォーマンスを見られ、(批判ではなく)批評を受ける環境なので、言語能力と心の両面から準備ができているか検討する良い材料になるかと思います。jinnno 5-2

2つ目ですが、通訳・翻訳という職種柄、言語の組み合わせと母語によって、また、国によって、市場が大きく異なるので、どの国にどのような仕事があるのか、どの国で働きたいのか(働けるのか)、MIISのキャリアセンターなどから情報を得て、大まかなイメージを持てるようにしておくと良いと思います。