Fall Forum 2018を振り返る(2)

こんにちは。

日本語プログラム通訳翻訳専攻(T&I)2年生の福谷昌子です。

前回からお伝えしている11月16日(金)に開催されたFall Forumの後半記事です。前半はこちらからどうぞ。

当日のようす

スピーカー31人、各パネルの司会8人、通訳者30人(一部通訳者スピーカー兼任)の参加で迎えた当日、オープニングセッションの会場であるアーバイン講堂は多くの学生で賑わっていました。

今年は、英語で行われたオープニングセッションにて4ヶ国語(日本語、韓国語、ロシア語、中国語)への同時通訳も行われ、特に通訳専攻の1年生にとっては、2年生の同時通訳を聞ける貴重な機会ともなりました。

パネルディスカッションでは、スピーカー1人につき2分程度該当トピックについてのオープニング・ステートメントがあり、その後司会による進行のもとオーディエンスも交えた質疑応答の時間が設けられました。どのパネルでも、各国のジェンダーの捉えられ方に関して文化、政治、教育など様々な側面から多くの興味深い質問が投げかけられ、とても有意義な議論ができました。日本語プログラムからも2年生2人が通訳として参加し、1年生もオーディエンスとして質問するなどして積極的にディスカッションを盛り上げました。

 

おわりに

今回のFall Forumでは、私自身、企画側として、また通訳・スピーカーとして携わる中で、このようなカンファレンスの企画・運営に関して多くのことを学ぶことができました。特に、Queers & Allies at MIISのメンバーと企画側として話す機会を得たことで、通訳としても企画者としても、こういった繊細なトピックを扱うことの責任や重大さを深く再確認しました。同時に、普段は翻訳通訳専攻、会議通訳専攻の学生が実際に通訳しているところを見ることがない他学部の学生にも、今回スピーカーやオーディエンスとして参加したことで私たちが普段どんな勉強・訓練をしているのかを垣間見る機会を提供することができ、通訳翻訳学部と他学部を結ぶ交流の場のきっかけを作ることができました。

2年生による逐次通訳

また、他の言語プログラムの学生の逐次通訳を見る機会も貴重なので、デリバリーや話すペースなども見ていてとても勉強になりました。なにより、この企画委員会に入ったことで、他言語プログラムで通訳を学ぶ同期と仲良くなることができ、Fall Forumが終わってからも卒業まで、そしてその先まで一緒に頑張っていける友人であり同僚である仲間たちに出会うことができたことを嬉しく思います。

この場をお借りして、Fall Forum開催に関わってくださったすべての皆さんに感謝申し上げます。ありがとうございました。

Fall Forum 2018を振り返る(1)

こんにちは。

日本語プログラム通訳翻訳専攻(T&I)2年生の福谷昌子です。

今回は、11月16日(金)に開催されたFall Forumについて、2回に分けてお伝えします。私自身、今年のFall Forum企画委員7人のうちの1人として企画・運営に携わったので、企画過程や当日の様子などをじっくりお話していきたいと思います!

Fall Forumとは

毎年通訳プラクティカムを履修している通訳科(会議通訳専攻または通訳・翻訳専攻)の2年生が企画・運営する模擬パネルディスカッションです。

1パネルにつき司会(モデレーター)1人とスピーカー3〜4人で構成され、全員に1人ずつ通訳者がつき、逐次通訳を介して多言語でのディスカッションを行います。

今年は、日本語、中国語、韓国語、ロシア語、フランス語、スペイン語、ドイツ語の計7ヶ国語でディスカッションが行われました。テーマは「Genderation(ジェンダレーション)」。今の世代のリアルなジェンダーに関するトピックを取り上げた8つのパネルディスカッションが行われました。

各パネルでのトピック:

  • 女性戦闘員(Women in combat)
  • 男女別教育(Single-sex schools/courses)
  • ジェンダーから見る言語学(Gender-related linguistics)
  • LGBTQの人々の権利 (LGBTQ+ Rights)
  • ジェンダーステレオタイプ(Gender stereotypes)
  • ジェンダーアイデンティティと家庭教育(Gender identity & upbringing)
  • 職場での差別(Workplace discrimination)
  • ジェンダーと政治:アファーマティブ・アクション(Gender and politics: affirmative action)

 

テーマについて

企画委員会のメンバーは全員、去年もスピーカーとしてFall Forumに参加した経験がありました。通訳者はプラクティカムを受講している2年生が中心ですが、スピーカーや司会は完全ボランティア制です。該当トピックについて話をしてもらうのにはある程度各自でリサーチしてもらうことや、各国、各文化でのそのトピックに関する情報共有をする場でもあるオープニング・ステートメントの準備もお願いすることになります。スピーカーや司会は、基本的には次の年に企画側となる通訳専攻の1年生を中心にお願いすることが多いです。

 

委員会では、去年スピーカーとして感じたことなども踏まえながら、スピーカーの方々が活発に議論できるよう、他に授業などもある中でディスカッションへの準備をしやすく、また興味も持ちやすいトピックにしようという主旨のもと議論が進められました。

また、パネルが複数あるため、狭すぎない分野にすることでパネル間での多様性も持てるようにしたいなどの意見もあがり、結果として「今の時代のジェンダーについて話そう」という形でまとまりました。

 

TILMを超えた参加の輪

例年、Fall Forumは通訳プラクティカムのイベントということもあり参加者はGSTILE(Graduate School of Translation, Interpretation, and Language Education)の学生が主でした。しかし、今年はジェンダーがテーマということで、構内の掲示板やスクリーンでFall Forumの宣伝を見たLGBTQコミュニティをはじめとするGSTILE内外の学生や教職員から例年よりも強い関心が寄せられました。今年発足した学内LGBTQコミュニティクラブQueers & Allies at MIISからも、ロシア語スピーカーとして1名が参加し、他のメンバーも積極的にオーディエンスとしてLGBTQ当事者としての声を共有しました。

 

 

シェファードさんによる基調講演

オープニングセッションでは、GSIPM(Graduate School of International Policy and Management)で紛争解決学を教えているプシュパ・アイヤー准教授と、同じくGSIPMで国際教育管理学および行政学を学ぶ2年生のケイトリン・シェファードさんに基調講演をしていただきました。

 

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読んでいただきありがとうございました。

次回は当日の様子をお伝えします!

在学生インタビュー【ティム・サーさん ニンテンドー・オブ・アメリカ(Nintendo of America)でのインターンシップについて】

今回は、2学期終了後の夏休みに、ワシントン州のレッドモンドにあるニンテンドー・オブ・アメリカにてインターンシップをされたティム・サーさん(翻訳ローカリゼーション管理修士課程ローカリゼーション専攻2年生)にお話を伺いました。

シアトルのスペースニードル展望台にて

-今回はお時間をいただきありがとうございます。サーさんは今年、ニンテンドー・オブ・アメリカでサマー インターンとして働かれたそうですね。もともと同社ではインターン採用の予定はなかったと聞きましたが、どのようにしてインターンシップを獲得したんでしょうか?

ネットワーキングです!MIISのキャリアカウンセラーのエディーさんから、ニンテンドー・オブ・アメリカで働いている方をLinkedInで探して、空いているポジションがないか聞いてみてはどうかとアドバイスをいただきました。そこで、日本で働いた経験がある方や、MIISの卒業生など、自分と共通点がある方を探しました。そしてついに私の履歴書を社内で共有してくださるという方が現れ、人事部につなげていただくことができました。時間はかかりましたが、通常は2年契約でしか採用しないポジションで特別に夏だけ働かせていただくことになったのです。最初はどうなるか心配でしたか、最終的にはこうしてインターンシップを獲得できました。

-1日の勤務スケジュールはどんな感じでしたか?サーさんが所属していたチームや部署ではどのような責任や仕事を任されていたんでしょうか。 

私が働いていた言語サービス(Language Services)部署では、日本の国内拠点とやりとりをする社内文書を翻訳しています。多くがデベロッパーからのコメントでしたが、マニュアルガイドやプレゼン資料を訳すこともありました。通常、一日のはじめにデベロッパーのコメント・プラットフォームからひとまとまりの翻訳業務が入ってくるので、それを日本語に翻訳します。すべて翻訳し終わると、一日を通してプロジェクト・スペシャリストからもっと大きい翻訳案件が回されます。さらに、翻訳を中心とした様々なテーマについてのミーティングも頻繁に開かれていました。

毎週金曜日には、みんなでアイスを食べながら親交を深めるアイスクリーム・ブレイクも設けられました。

-ニンテンドー・オブ・アメリカでの経験はどうでしたか?今回のインターンシップでの学びを教えてください。 

とても良い経験でした!チームのみなさんも素晴らしい方ばかりで、優しく接していただきました。最初は、ローカリゼーションを専攻しているのに翻訳の仕事ばかりで少し残念に思っていましたが、最終的にはとても価値のある、学びの多い経験になりました。長い期間をかけて確立された効率的なワークフローを間近で見ることができた上、大学院での残りの1年間、何に焦点を当てて過ごすべきかについてもアドバイスをいただくことができました。そして言うまでもなく、とても興味深い方々との出会いもありました。

-MIISのTLM(翻訳ローカリゼーション管理)プログラムでの勉強は、ニンテンドー・オブ・アメリカでどのように生かされましたか?

MIISで勉強したことこそが、このサマーインターンシップを獲得できた大きな理由の一つだったと思います!CATツール(翻訳支援ツール)の使い方も既に勉強して知っていましたし、最近のローカリゼーションでよく使われているツールや専門用語も知っていたので、時間を無駄にすることなくスムーズにチームに溶け込み、すぐに仕事を始めることができました。また、MIISでの経験のおかげで、ワークフローやベストプラクティスなどについての会話にも自信をもって飛び込んでいくことができました。MIISでの経験は大いに生かされたと思います。

サーさんのニンテンドーグッズ

-最後に、ブログ読者の方にメッセージをお願いします。 

サマーインターンシップを探すにあたって私とまったく同じことをするのをお勧めできるかどうかはわかりません。このインターンを獲得するために春学期はずっとネットワーキングに努めていましたし、実はニンテンドー・オブ・アメリカだけに賭けているところがありました。ダメだった時のための他の選択肢は用意していなかったので、プレッシャーはとても大きいものでした。もし自分にとって夢のサマー インターンがあるのであれば、全力でそれに向かっていってほしいと思います。ただ、少なくとも他の選択肢も見ておくと良いかもしれません。

*今回のインタビューは英語で行い、翻訳したものを掲載しています。

在学生インタビュー【ショーン・ケリーさん Boxインターンシップについて】

今回は、2学期終了後の夏休みに、シリコンバレーの会社、Boxにてインターンシップをされたショーン・ケリーさん(翻訳ローカリゼーション管理修士課程2年生)にお話を伺いました。

−本日はお時間をいただきありがとうございます。ショーンさんはこの夏、Boxでインターンをされていましたが、今回のBoxでのインターンシップでは、具体的にどんなお仕事をされていらっしゃったのでしょうか。

Boxでは、ローカリゼーションチームのインターンとして、 Box製のソフトウェアに関する、ほとんどの翻訳プロジェクトの管理を担当していました。Boxはソフトウェアの会社で、ファイル共有や、ファイル上での共同作業を可能にするソフトを開発し、企業に販売しています。

ソフトはアジャイルソフトウェア開発という方法で開発されていて、これは開発されたソフトが継続的にアップデートされていくというものです。ソフトが常にアップデートされるので、ソフトに何か新たな文字列が追加されると、それがBoxの開発した「Mojito(モヒート)」と呼ばれる翻訳管理ソフト上に自動的に集められる仕組みになっています。私はそれを定期的にチェックし、新しい文字列が翻訳されるように手配していました。具体的には、Mojito上で新たな翻訳プロジェクトを立ち上げ、必要な作業を業者に依頼していくというものです。作業を依頼すると、業者からは進捗や遅れなどについて連絡が来るのでその対応をします。Boxでは、翻訳の作業と校正などの作業は別々の業者(LSP[翻訳会社])に依頼していたので、私はその二社それぞれに、週に一度スカイプをして進捗状況や次の作業について確認をしていました。

Boxのインターンは、各自何かのプロジェクトを任されます。プロジェクトは、後にソフトの開発に活かされるためのものです。私も二つのプロジェクトに取り組んでいました。まず一つ目は、ソフトの検索機能を日本語でテストするというものです。日本はBoxにとって非常に大きな市場なのですが、Boxのソフトには日本語での検索機能に、まだいくつかの課題があります。Boxの本社には日本語話者がいないことや、日本支社では他の業務がたくさんあるため、私が日本語で検索機能をテストし、何がうまくいって何がうまくいかないのか、それについて何かパターンはないか、などを調べる作業を担当させてもらいました。

もう一つ私が取り組んでいたのは、ある言語についてのABテストの方法についてです。このABテストは、言語を追加したり、変更を加えたりすることで、Boxのソフトのユーザーの使用体験にどのような影響があるかを確認する作業のことです。うまくテストを行うために何が必要か、様々なことを試しました。

また、ローカリゼーションチームは小さなチームだったので、それ以外にも多くの業務に関わらせてもらうことができました。さらにローカリゼーションチームの所属する、プロダクトチームの定例会議に参加させてもらうこともできました。プロダクトチームの取り組んでいることや、社内で起こっていることをたくさん知る機会となり、とても貴重な経験でした。

ところで、「Mojito(モヒート)」には面白い由来があります。ローカリゼーションチームは以前、モジチーム(Moji team)と呼ばれていました。というのも、ローカリゼーションチームは、たくさんの日本語の文字化けに対応しなければならなかったからです。あるとき、この製品の名前を考えていた開発者の方が、モジ(Moji)はモヒート(Mojito)に似ていると思いついたことから、「Mojito(モヒート)」という名前がつけられることになったそうです。私も実際、インターンシップ中に、モジ(Moji)の意味を聞かれて説明することがよくありました。

−インターンシップでどのような学びがありましたか。

インターンシップ中には、社内の様々な立場の方とのコミュニケーションについて学ぶことができました。ローカリゼーションを担当する私たちのチームは、モノやサービスが自分の母語で提供されている方が使い心地がいいだろう、楽しいだろうと考えるので、あらゆるものを様々な言語に訳したいと考えます。ですが、ローカリゼーションに必要な作業を実行するには、必要なコストや変更について、他の部署の方にきちんと根拠を示して説明する必要があります。

ですので、例えばある言語が追加されたことで、ユーザーがもっとお金を使ってくれるようになった、利用時間が長くなったなどを、示してくれるデータを探さなければなりません。また、どの言語に優先的に対応するかについても、「この言語は、これだけのユーザーがいて、これだけ多くのユーザーに影響するから、ぜひ対応するべきだ」というように言えないといけません。先ほどお話しした日本語の検索機能についてもそうです。日本は大きな市場ですが、もしこれが、もっとユーザー数の少ない他の言語に関わることだったとしたら、私が担当していた作業は必要にならなかったかもしれません。

またエンジニアの方とは、向こうには技術的な面から見て必要だと思うことがある中で、こちらが必要だと思うことをどのようにすればうまく伝えることができるのか、考える必要がありました。様々な立場の方に、ローカリゼーションについて理解してもらうために説明するのは、とても興味深い経験でした。

その一方で、私はイギリス英語版(コンテンツやユーザー・インターフェースなど)の改善にも取り組んでいた関係で、様々な種類の英語についても学びました。アメリカ、カナダ、オーストラリア、イギリスの英語について、何がどのように違うのかなどを、改めていろいろと調べ、学ぶことができたのはおもしろかったです。またBoxでは、英語のように、同じ言語でも地域差があるものは、一定のユーザーがいれば、それぞれに対応することも重視されていました。そのため、それによってどんな効果があるのかを示すデータを探すことにも取り組んでいました。

もう一つ興味深かったのは、翻訳者にはいかに文脈が必要なのか、改めてよく分かったことです。翻訳者の方に依頼するファイルは、表の中に、見出しのように言葉が並んだだけの形式でした。翻訳者の方は、それらが何のためのものか、開発者が書いた説明を確認できるようになっていますが、時々それを見てもよく分からないものも出てきます。そんな時にこの文字列はどこに表示されるのか、この表は何なのか、ここでは何が起こっているのか、など様々な質問を受けました。質問を受けると、それがソフトの中でどこに表示されるのかを調べて説明したり、スクリーンショットを撮って送ったりもしました。複雑すぎて突き止めることが難しい場合には、開発者に問い合わせたりもしました。最終的には、業者の翻訳担当部門の方に対してWebセミナーも行いました。ソフトの中で翻訳される部分がどのように表示されるのかなどを説明し、役に立ったと言ってもらえたのでよかったです。

−MIISで学んだことがインターンシップでどう活かされたか、お聞かせください。

一番大きかったのは、翻訳のプロセスについて把握していたことです。例えば、TEP(Translation, Editing, Proofreading)とは何なのか、それぞれの業者はどんな働きをするのか、どのようなプロセスがあってその中で翻訳はどの段階にくるのか、などです。何が行われているのかすぐに理解できたので、苦労なくすぐに仕事に入っていくことができました。

インターンシップ1日目の職場のデスク

CATツール(翻訳支援ツール)について知識があったことも、とても役立ちました。MIISで学んできたことのおかげで、全体的にあまり混乱することもなかったので、何が行われているのか把握するのに必死になるのではなく、どうすればユーザーのために改善していけるのか、どうすれば行いたい作業を実現できるのか、などに集中することができました。

また、少し意外というか、予想していなかったこともあります。はじめは、業者の方とスカイプをする時のことを考えると、きっと私は向こうの話す内容を分かっていないと思われてしまうのではと、とても緊張していました。ですが、結局心配の必要はなく、実際は業者の方と同じ目線や用語で会話することができていました。これはとても嬉しかったことです。

インターンシップでは、本当に素晴らしいチームで仕事をさせてもらい、とても良い経験をすることができました。私の上司はMIISの卒業生だったのですが、その方のおかげでインターンシップ中には、色々な場面でプレゼンテーションをする機会をいただきました。さらに、11月1日からシリコンバレーで開催されるLocWorldという会議で、エンジニアの方と二人でBoxを代表してプレゼンテーションをさせていただくことになりました。LocWorldでは、スタートアップ企業向けの、ローカリゼーションに関するパネルディスカッションが行われます。そこで私の上司が発表するよう依頼されていたのですが、スケジュールの都合で出席が難しいため、代わりに私に発表しないかと言ってくださったからです。うまくいくことを願っています。

LocWorldでケリーさんは11月1日に発表されるようです。頑張ってください!

*今回のインタビューは英語で行い、翻訳したものを掲載しています。

在学生インタビュー【彦坂メアリーさん グッドマン社インターンシップについて】

今回は、2学期終了後の夏休みに、ダイキン工業株式会社の米国子会社で、住宅用空調大手であるグッドマン社(Goodman Global Group, Inc.)にてインターンシップをされた彦坂メアリーさん(会議通訳修士課程2年生)にお話を伺いました。

―本日はお時間をいただきありがとうございます。彦坂さんは夏休みの間、グッドマン社で2ヶ月間インターンシップをされていましたが、具体的にどんなお仕事をされていらっしゃったのでしょうか。

グッドマン社では、通訳インターンとして働いていました。仕事内容は、大半が通訳で、時間の合間に翻訳もするという感じでした。通訳は、逐次通訳と同時通訳のどちらもする機会があったのですが、具体的には、グッドマン社のアメリカ人社員の方と、日本のダイキン工業からたくさん来られている日本人出向社員の方との間に入って、製造の現場での逐次通訳や月例や週例で行われる会議での同時通訳をさせていただきました。

逐次通訳は、MIISの授業では2〜3分間聞いてメモをとり通訳しますが、それとは違い、1〜2文くらいの短い内容を訳していくという形でした。同時通訳では、インターンなので完全な通訳はできない可能性があるということを伝え、その了承を得た上で、一緒にインターンシップをしていたクラスメイトと、どちらかと言えば少し練習のような形で通訳をさせていただいていました。会議の内容は会社のビジョンや予算のことなど多岐にわたり、同時通訳をするにはとても難しかったのですが、良い経験となりました。

翻訳は、通訳を依頼された会議で使うパワーポイントの資料を会議前に翻訳したり、日本から送られてきたいずれ翻訳が必要になる資料を空いた時間に少しずつ翻訳したりという感じで、内容は製造関係が多かったです。会議に使う資料の翻訳は、事前資料として会議の内容を理解するのにも役立ちました。

―インターンシップでどのような学びがありましたか。

良い意味でも悪い意味でも、MIISで学んだことがすべてじゃないということに気づかされました。MIISの通訳の授業では、2〜3分の長さの通訳が当たり前ですが、スピーカーの話しやすさや通訳を聞く側の聞きやすさを重視して、インターンシップではその長さが1分にも及ばないことがほとんどでした。また、日本側とアメリカ側の間に立ってみて感じたのが、文化や考え方の違いや、コミュニケーションの違いを理解した上で通訳することがとても大切だということです。「言葉の置き換えだけでは通訳は務まらない」ということを身をもって理解し、通訳者に何が期待されているのかについて考え直すきっかけとなりました。通訳する上で一つ一つの言葉がどれほど大事なのか、言葉を巧みに操ることがどれほど難しく、また魅力的であるのかに気がつきました。

また、MIISで勉強している時は、学生として自分がいかに完璧な通訳をするかやいかに間違いをしないようにするかにフォーカスしてしまい、自分本位になりがちです。ですが仕事となると、通訳は自分ではなくて、人と人とのコミュニケーションを図ることにフォーカスしないと、ただの自己満足に終わってしまうと改めて感じました。さらに、学校では通訳でも翻訳でも、基本的に教材の話し手や書き手に質問することはできない環境です。そのため、自分で調べたことや、自分の解釈に頼って訳すわけですが、実際の現場では、質問することが当たり前で、逆に質問せずに自分の解釈で訳して間違うよりも、質問した方が絶対にいい環境です。そのような環境で仕事をしてみて、自分の本当に聞きたい情報を的確に引き出せるように、質問をすることにも慣れておく必要があると感じました。

―MIIS で学んだことがインターンシップでどう活かされたか、お聞かせください。

もちろん通訳のメモ取りの技術をはじめ技術面で活かされたことはたくさんありましたが、MIISで学ぶことで打たれ強くなったことが私には大きかったです。私はすごく緊張するタイプなのですが、何かの課題に直面しても「次に行こう」という気持ちで通訳に臨むことができたのは、MIISで1年間授業を受けてきた中で打たれ強くなったおかげかなと思います。通訳をしていると失敗はとてもよくあることですが、失敗の連続でもくよくよせず、その失敗から学んだことを活かしていこうと思える性格が1年で培われたのではと思います。

また、これは質問とは逆になりますが、MIISで学んでいないことでとても苦労したこともあります。英日通訳の授業で扱われる教材は、ほとんどが英語ネイティブのスピーカーのもので、基本的には流暢なイギリス英語やアメリカ英語です。でも実際に通訳が必要な現場では、英語ネイティブの方ももちろんいますが、そうでない方も多く、聞き取りに苦労したこともありました。そのような時にはリスニングにより集中力を使うことになり、それが本当に大変でした。今の時代、英語ネイティブでない方が英語を話す機会はたくさんあるので、いかにいろんな人の英語に慣れるかがすごく重要で必要なことだと強く感じました。

卒業生インタビュー【加藤智子さん】

今回は、2015年にMIISの翻訳通訳修士課程(MA in Translation and Interpretation)を卒業されたあと、アメリカでご活躍中の加藤智子さんにお話を伺いました。

―はじめに、MIISの修士課程で学ぼうと思ったきっかけを教えていただけますか。

もともと翻訳を志していて、イギリスで文芸翻訳の修士号を取得したあと7年間ほどフリーランスとして翻訳のお仕事をしていました。ただ、イギリスの大学院では理論が中心で具体的な翻訳の訓練はほぼ皆無だったこともあり、どこかでしっかりと翻訳のスキルをつけ直したいという思いがずっとありました。それに加えて、通訳者として活躍している友人の影響もあって、通訳にもずっと憧れのような気持ちを持っていました。

MIISで学ぶことを本気で考え始めたのは、実際に出願を決心する半年ほど前です。MIISについては方々で耳にしてずっと気になっていたのですが、とてもレベルが高く厳しいプログラムという評判だったので、自分にはとうてい無理だろうと最初からほぼ諦めていました。それが、たまたま帰省中に再会した高校時代の恩師と話していた時に、あくまで世間話としてMIISの話題を出したところ、先生に「なんだかすごくその学校に行きたそうに聞こえるけど」とあっさり言われてしまい、そのおかげで自分が自信はなくとも通訳・翻訳を本格的に学びたいと思っていることに気付くことができました。その後すぐ、実際にモントレーを訪れて逐次通訳の授業を見学させていただいて、とにかくここで2年間挑戦してみようと決心しました。

―卒業後は、主にどのようなお仕事をされていらっしゃいますか。

卒業後は、まず3ヶ月間、スイスのジュネーブにある世界知的財産機関(WIPO)で英日翻訳のフェローシップに参加しました。WIPOのフェローシップは通常、他言語から英語への特許翻訳が中心なのですが、私の卒業時はちょうど英日翻訳のプロジェクトが進行中で、運良く機会をつかむことができました。もう一つ運が良かったのは、MIISで一緒に学んだクラスメートが同じ時期に同じプロジェクトに配属されていたことです。信頼する仲間とアイディアを出し合いながら協力して翻訳に当たる喜びは、何物にも代えがたいものでした。日々の仕事の後は、これも同時期にフェローとしてWIPOに滞在していたMIISの後輩も一緒に、湖のほとりでピクニックをしたり、無料のコンサートを聴きに行ったりと、夏のジュネーブを満喫することができました。翻訳者としての経験という意味でも、友人たちとの思い出作りという意味でも、とても良い夏を過ごすことができたと思います。

現在は、シリコンバレーのGoogle本社で翻訳・ローカライゼーション関連のお仕事をしています。国際色豊かな環境で最先端の技術に関わることができ、とても刺激的な毎日です。

このように、今のところ翻訳が中心になっていますが、長期的には翻訳と通訳、両方のお仕事を良いバランスで続けていければ理想だと思っています。

―MIIS在学中、インターンシップなどはされましたか。どんな経験だったか教えてください。

MIIS Blog_TK_01

同時通訳の実習

1年目の夏休みに、日系製薬企業で通訳インターンシップを経験しました。とにかく社内通訳の皆さんの技術の高さに圧倒され、そのお仕事ぶりを見学させていただくだけでもとても有意義な体験でした。通訳インターンとして定例の電話会議での逐次通訳を担当したのですが、最初は専門用語や社内用語の羅列に戸惑うばかりだったのが、MIIS卒業生でもある先輩通訳者の方々をはじめ多くの方に助けていただいて、なんとか最後までやり通すことができました。プロジェクト全体の流れやチームの構成が見えてくるにつれて少しずつ自分の通訳が変わっていくことを実感して、社内通訳の醍醐味を垣間見ることができた気がします。担当の会議以外にも、治験に関する専門的な会議に入らせていただいたり、後半には日本本社から来られていた40人の営業チームの皆さんを前にプレゼンを通訳する機会もいただいて、本番前の緊張や不安に始まり、通訳中の集中した状態の気持ちのよさ、やり終えた後に「ありがとう」と声をかけていただく嬉しさまで、現場でしか体験できない貴重な体験をさせていただくことができました。

―MIIS で学んだことが、いまお仕事にどう活かされているか、お聞かせください。

MIISに来る以前と比べて、仕事に向かう意識が根本的に変わったと感じます。MIISに来る前までは、どこかで翻訳という作業に対して甘さがあったと思います。それが、MIISの先生方の翻訳通訳に対する徹底した客観的な厳しさやプロ意識、そして情熱を目の当たりにして、自分もまだまだ経験が浅いとはいえ翻訳者、通訳者としてお仕事をする以上は同じような覚悟を持って仕事に当たらなくてはと自然に感じるようになりました。これは、現役かつトップクラスの翻訳者、通訳者の方々を教授陣に揃えるMIISだからこそ得られたものであり、一生の宝となる経験だったと思います。

Googleでのお仕事では、特にIT翻訳の授業で学んだことが具体的にたいへん役に立っています。訳出の正確さや読みやすさ、わかりやすさを追求することはもちろん、例えば指定されたスタイルガイドに沿って翻訳するような場合に、細かいところまで限りなく100%に近づけられるように最大限の注意を払う、という基本的な姿勢を、日々の授業や課題を通してしっかりと身につけることができたと感じます。

MIIS Glog_TK_02

プラクティカムの教授やクラスメートと

―MIIS の学生生活のなかで、一番思い出に残っていることは何ですか。

なんといっても、クラスメートや仲間と過ごした時間です。通訳の授業の準備で毎日カフェテリアで練習したり、つらい時は励ましあったりして、とてもリアルで密な人間関係を築くことができました。入学前のイメージでは、一人孤独に図書館にこもるような勉強を想像していたので、こうして思いがけず大切な財産を得ることができたことをなにより嬉しく思っています。それから、通訳のプラクティカム (実習授業) で、各言語の通訳志望の仲間たちと一緒に練習会を企画したり、時にはリレー通訳という形で一緒に通訳にあたったりしたのも、とてもいい思い出です。いつかまたあの時のみんなで、ブースを超えて一緒に通訳ができたらいいな、と思っています。

―入学希望者の方たちに、特にアドバイスがあればお願いします。

私のように、興味はあるけど自信がなくて出願を迷っている、という方がもしいたら、私を含めた卒業生に連絡を取って話を聞くなり、可能であれば実際に授業を見学するなりしてとにかく行動を起こしてみることをお勧めします。自分に合う世界であれば、必ずピンとくると思います。

MIISでは、技能や知識という意味で多くを学べることはもちろんですが、何より先生方や仲間達など、同じことに情熱を持つ多くの人に出会うことができますし、そのような出会いが不安を乗り越える大きな助けになってくれると思います。まったく自信のなかった私も、いろいろな人との出会いのおかげで、今になって振り返えれば「楽しかった!」という言葉しか出てこないぐらい、最高の2年間を過ごすことができました。前向きな興味を持って足を踏み入れるのであれば、MIISでの時間は必ずや有意義なものになると思います。

 

卒業生インタビュー【ジョナサン・マイケルズさん】

今回は、2010年の卒業生ジョナサン・マイケルズさんにお話を聞きました。ジョナサンさんは、MIISの翻訳通訳修士課程(MA in Translation and Interpretation)を卒業され、現在は日本でフリーランス翻訳者として活躍されています。

―MIISに入学する学生は文系の人が多いのですが、マイケルズさんは大学で日本語だけでなく、電子工学・コンピュータ科学を専攻されたと伺っています。大学卒業後、理系の道に進むかわりに、MIISの修士課程で日本語の通訳翻訳を勉強しようと思ったきっかけを教えていただけますか。

一つ目のきっかけは大学3年と4年の間の夏のことでした。コンピューター・アニメーション制作会社のピクサーでインターンシップをしていたのですが、ある日、同期のインターンに、暇な時間の過ごし方について聞かれました。うちに帰っても週末でもピクサーでの仕事と同じようにCGモデル作りなどに励んでいた彼とは対照的に、僕は暇の大部分を日本語の勉強に充てていると答えたのですが、そのときから悩み始めました。趣味をキャリアにしようとしていた彼にとって、コンピューター・アニメーションは明らかに天職でしたけれど、自分はどうなのかなと。その何気ない世間話的な質問がきっかけとなって、高校で勉強を始めたときからすごく楽しいと思ってやがては最大の趣味となっていた日本語を仕事にできたらいいなと思うようになりました。

「一つ目のきっかけ」と書いたのは、そのときはまだどういう形態で日本語を仕事にできるか見当もつかなかったからです。「翻訳」について考えたことはほとんどなくて、あったとしても僕よりクリエイティブな人じゃないとできなさそうな文学翻訳だけであって、それ以外の翻訳は職業として存在することさえ知らなかったと言ってもいいぐらい視野になかったのです。そこでとりあえず、日本の文科・外務・総務各省が運営している、いわゆるALT(「外国語指導助手」)やCIRと呼ばれる国際交流員を自治体などに斡旋するJETプログラム(「外国語青年招致事業」)に応募してみました。同プログラムへの参加は最高5年までとなっていて、キャリアではなく別の何かへの踏み台にしかなれないのですが、受かったところで終わった後どうするか分からないまま応募したわけです。

幸い、茨城県庁にてCIRとしての配置が決まったときとそこへの出発との間に、去年のご退職まで長い間MIISの進路相談室の中心的存在となっていたジェフ・ウッドさんによる、「International Careers」というような題名の説明会が僕の大学のキャンパスで開かれました。本当にたまたま、用事と用事の間に1、2時間つぶす必要があったときにその説明会を宣伝する張り紙が目に入って、軽い気持ちで行ってみたのですが、終わった頃にはもう将来の形が見えていました。説明会の題目はある程度名目だけで、実質的にはMIISそのものについての説明会でした。職業としての翻訳やMIISの就職サポートについての説明もあって、どう始めたらいいか分からない人が翻訳の道に進むにはMIISが最適だということがよく分かりました。つまり二つ目のきっかけも、その説明会に参加してみたという、最初は何気なかったことでした。

―卒業後は、主にどのようなお仕事をされていらっしゃいますか。大学で理系を専攻したことが、どのように役立っていますか。

在宅で翻訳をやっています。形式上はフリーランスですが、今は仕事の9割以上が、特許などを扱う国連の機関であるWIPO(World Intellectual Property Organization=世界知的所有権機関)からの翻訳なので、ほとんど専属のようなものです。具体的には、今は主に「特許性に関する報告書」という、日本の特許庁にいる特許審査官が特許の出願書を見て特許になれそうかどうかの見解を書いた文書を、日本語から英語に訳しています。

その文書の内容はみんな技術的なものですが、その技術分野は、例えば自動車用の無段変速機から、線維筋痛の治療薬や紙おむつに至るまで、本当に様々です。なので大学で勉強したコンピュータ科学を直接活かせるときもありますが、そうじゃないときのほうが多いです。でも学校で勉強していない技術分野のときでも、大学で育った(というよりもともとあったから一旦その道に進んだ?)理系の頭が役立っているような気もします。

―MIIS在学中、インターンシップなどはされましたか。どんな経験だったか教えてください。

1年目と2年目の間の夏に、上述のWIPOの拠点であるジュネーブに行って、同機関で約3ヶ月間のインターンシップをやらせていただきました。ジュネーブの公用語であるフランス語がほとんど分からなくて生活面での苦労は少しありましたが、職場では、翻訳に対する熱意を共有してくれて、そして温かく接してくれる同僚・上司や、(同じくMIISからの)仲の良い同期に囲まれて、毎日が楽しかったです。

風船

誕生日の上司のオフィスを風船で埋め尽くそうと風船を膨らませているインターンたち

今やっているのとほとんど同じ仕事をやっていましたが、インターンシップでは毎日のように細かい指導をいただいて、非常に勉強になりました。直される点が週ごとに減って、特許系の翻訳に慣れてくるのを本当に実感できました。

―MIIS で学んだことが、いまお仕事にどう活かされているか、お聞かせください。

授業中やクラスメートとの勉強会で、練習に練習を重ねたり、望まれる翻訳とは何かを議論したり、具体的な用語や構文への対処法を話し合ったりすることで育んだ翻訳脳が今役に立っているのはもちろんのこと、僕の場合はもっと直接的な意味でMIISに行かなかったら今の仕事に就くことができませんでした。というのは、現状では翻訳会社を介せずに直接WIPOから翻訳仕事を受けられるのは翻訳の修士課程を修了している人だけだと聞いたと思いますし、MIISの卒業生がそうしている人の結構大きな割合を占めている気がします。

また、翻訳そのもの以外にも、お得意先とのやり取りでの留意点や、見積書や請求書の作成の仕方など、翻訳のビジネスを運営する上で必要になる諸々の付随業務についても学んで練習したおかげで、より自信を持って卒業直後にフリーランスに踏み切ることができました。

―MIIS の学生生活のなかで、一番思い出に残っていることは何ですか。

これは難しいなー。やっぱり濃い2年間だったので、思い出はいっぱいあります。お好み焼きパーティーや天ぷらアイスパーティーなど、クラスメートのアパートでの数々のパーティーや、追い出しコンパでジャスミン役になってアラジン役の女性のクラスメートと一緒に『ホール・ニュー・ワールド』を披露したとき、数人でATA(American Translators Association=米国翻訳者協会)の年次会議に出席するためニューヨークに行ったとき、ブースメートの都合が急に悪くなった先生から大きな会議での通訳の補欠を頼まれて、緊張のあまり、代わりが見つかったからいいという旨の電話が来るまでの半日間食べ物を一切口にできなかったとき、ドイツ語プログラムの学生との合同通訳練習など……

お好み焼き

T&IJ ’10のクラスメートと

でも敢えて一番思い出に残っているエピソードを選ぶとしたら、ちょいダメな学生みたいに聞こえるかもしれませんが、日本語プログラムの学生だけじゃなくて翻訳通訳の学生全員(かな?)で受講する講義があって、ある日のその講義の直前にクラスメートの一人が少し体調を崩して休むことにしたから、全員一致で一緒に休むことにして、1時間だけ多忙のなかのゆったりとした時間を一緒に過ごしたときです。もちろんサボりはいけない、とここで書いておきますが、今も健在な、クラスメート同士の絆の強さを実感できたひとときでした。

―入学希望者の方たちに、特にアドバイスがあればお願いします。

入学までの道のりは人それぞれ過ぎて広く当てはまるアドバイスができる自信がないので、もう入学した前提でのアドバイスです。

翻訳はある程度一人で集中してやる必要があるかもしれませんが、お互いの草稿の校正や改善提案ができますし、何よりも通訳やサイトラ(サイト・トランスレーション=紙や画面上の文章を読んで口頭で訳すこと)は、2年間の間なるべく沢山クラスメートと一緒に練習したほうがいいです。お互いから学べることがたくさんあるはずですし、そして一生の友達になるかもしれません。

以上です!ここまで読んでくださって、お疲れ様でした!そしてありがとうございました。

新学期に向けて

冬休みが終わり、来週から春学期が始まります。今日は1年生の土居可弥 さんに、秋学期を振り返った感想を書いていただきました。

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皆さま、こんにちは。 もうすぐ春学期が始まろうとしていますが、1年生の秋学期について振り返りたいと思います。

まずは勉強面です。MIISに来る前、授業は職業訓練をイメージしていましたが、実際に1学期終えてみると、通訳と翻訳を通して教養をつけるアカデミックな部分も大きかったように感じています。それぞれのクラスであらゆるトピックが出てくるので、そのためにリサーチをし、クラスメイトとも話し合う中で、そのトピックに対して共感が強まる瞬間がありました。特に、秋学期は安全保障問題や沖縄の基地問題も大きく取り上げられていた時期です。このようなニュースについて話し合えるのは海外にいながら、日本とのつながりを感じる時間でもあり、遠く離れている分、それだけ強く感じたものがありました。通訳・翻訳を軸に、今まで知らなかったことをより身近に感じ、学べることは大きな気づきでした。

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キャンパス近くのカフェ

またクラスメイトとはもちろん、学年や学部を超えた交流があることにも感謝しています。MIISはプロフェッショナルなイメージが強かったので、職務経験が浅い私が、上手く馴染めるか不安でした。MIISに来てみると、自分のような人もいれば、様々なところでボランティアや職務経験を積んできた人が多く、どの人も気さくにいろんなお話を聞かせてくれます。特にクラスメイトは、モントレーにいる家族のような存在です。たいてい、授業で通訳の実技をする時には、誰かが「頑張って!」と声をかけてくれて、そのおかげで緊張がほぐれます。2年生の先輩も、私たち以上に忙しいのにもかかわらず、授業外で練習を一緒にしてくださったり、ブランチやホームパーティに呼んでくださったりします。一人一人のMIISに来るまでの道のりや思いを聞くと、自然と自分が一緒にこのタイミングで入学できたことをありがたく思えます。

このような恵まれた環境にいながらも、やはり新しいライフスタイルに慣れる上でのストレスもたくさんありました。身体と心の健康管理をするための息抜き探しも秋学期の大きなテーマでした。そのような中、今学期初挑戦したヨガとメディテーションは大きな支えになりました。

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海辺のアザラシ

例えば、“Mindfulness for Interpreters”というクラスで、メディテーションを実践しながら、通訳者のメンタル・ケアについて理解を深めていきました。もともと通訳と感情移入について興味があった私にとって、このクラスはぴったりでした。メディテーションはとても落ち着き、また他の言語の通訳の学生と日々のストレスについて一緒に振り返り、クラスや生活での気づきについて率直に話し合えたのは大きな励みになりました。

また、ヨガの免許を持つMIISの学生が週2回教えているヨガのクラスもリラックスできるひとときになりました。身体が温かくなり、気分が落ち着き、再び頑張る意欲も出てきました。特にメディテーションでもヨガでも「呼吸」を意識するきっかけになり、リラックスしたい時はもちろん、通訳をする前に集中したい時にも重要なのが肌身でわかりました。ヨガ、メディテーション、また他にMIISで開講されているズンバ・レッスンなど、私のような初心者でも大歓迎なので、ぜひMIISにいる間にとることをおすすめします!

あっという間に、新学期がもうじき始まります。MIISに入学してからはもちろん、入学するまで様々な面で支えてくださり、背中を押してくださった皆様に心より感謝しています。その感謝を忘れずに、今後も精一杯努力しながら、学生生活を充実させていきたいと思います。

 

 

 

 

卒業生インタビュー【森田系太郎さん】

今回は、2012年に会議通訳修士課程を卒業された、森田系太郎さんにお話を伺いました。

―森田さんはアドバンスエントリー制度を利用してMIISに2年目から入学されましたが、まず、MIISに留学しようと思ったきっかけを教えていただけますか。

MIISには2011年の8月に入学しました。遡ること同年3月、立教大学で博士論文を提出し、9月に博士号取得予定でした。卒業後にそのまま環境社会学者としてアカデミアに残るべきか、それとも新たなキャリアとして関心を抱いていた通訳者になるべきか、岐路に立たされました。“To be or not to be an interpreter”ですね。そして、結局、後者を選択しました。

理由は2つ。1つ目は、もちろん、プロの通訳者になるための訓練を受けたかったことがあります。立教大学には修士・博士課程を通じて6年半在籍しましたが、ともに社会人向けコースで授業が夜間に開講されていたため、昼間はフリーランス翻訳者として働いていました。その際、短期間ですが通訳学校に通っていたこともあり、たまに通訳のご依頼もいただいていました。しかし、付け焼刃では太刀打ちできず。いつか、十分な時間を確保して体系的に通訳訓練を受けてみたいと思っていました。

2つ目は、博士論文を提出した2011年3月に生じた東日本大震災です。当時、私の故郷である仙台に母親が1人で住んでおり、水道・電気・ガス・食糧供給がストップするなかで、母を故郷の鳥取に避難させなければならない状態になりました。このような経験のなかで、「人生一度きり、だから常にやり残したことはないようにすべきだ」「アカデミアはとりあえず経験したから次は通訳を勉強してみたい」という思いが芽生えてきたのです。

「MIIS時代にブースで同時通訳を練習中の筆者」

MIIS時代。ブースで同時通訳を練習中

思い立ったら吉日。早速、通っていた通訳学校「土曜学校」の校長で、元MIIS教員でもある中山貴子先生に相談したところ、MIISを勧められ、すぐに願書を提出。その際にアドバンスエントリー制度という2年次に編入できる制度があることを知り、受験することにしました。受験に当たってはTIコース(Translation & Interpretation[翻訳通訳]コース:逐次通訳と翻訳がコア科目。同時通訳も履修可能)を考えていましたが、当時、日本語学科主任でいらっしゃった武田珂代子先生(現・立教大学教授)にCIコース(Conference Interpreting[会議通訳]コース:同時通訳と逐次通訳がコア科目。翻訳も履修可能)を勧められ、後者で受験することに。予期せぬ航路変更でしたが、結果として合格に至りました。武田先生に勧められて偶然、CIコースに進んだわけですが、そこで同時通訳のスキルを学べたことは現在の職場でとても役立っているので、その偶然は必然だったのかも知れません。ということで、中山先生、武田先生には今でも足を向けて寝ることはできません(!)。

なお、アドバンスエントリー制度については、1年で修了できるため、時間・資金面でメリットがあります。ですが、アメリカ生活に慣れながら、通訳と翻訳を基礎からじっくりと学べる、という点では、2年間かけて修了することにもメリットがあると考えています。

―現在は、どのようなお仕事をされていらっしゃいますか。

アメリカ東海岸の製薬企業で通訳・翻訳の仕事に携わっています。通訳が業務の95%以上を占めており、同時通訳・逐次通訳の両方のスキルが必要とされます。職場では、医薬品開発のための臨床試験に関するトピックのみならず、その前の段階で行われる基礎研究や非臨床試験に関する会議を担当することもあります。また、臨床試験が終了し、当局から承認されるとその製品は市場に出る(「上市」)わけですが、上市後に行われる試験に係る会議や、セールス・マーケティングの会議もあります。他には、薬事や製薬系IT、ファーマコビジランス(PV)、医療機器、人事、法務関連の会議の通訳を担当することもあります。

担当する会議のトピックが多岐にわたるので、とても刺激的な毎日を過ごしています。逆に言えば、日々勉強の毎日です。MIISを卒業したから勉強はオシマイ、という訳ではなかったですね、残念ながら(笑)。半年ほど前、MIIS・1年生の日英通訳の実践練習をお手伝いする目的で、「Becoming the Interpreter」という発表をさせていただきましたが、発表の主旨は「理想の通訳者になるためには、MIISで身に付けたことを土台とし、卒業後も、現場を踏みつつ、努力し学び続ける必要がある」というものでした。

―MIIS で学んだことが、いまお仕事にどう活かされているか、お聞かせください。

逐次通訳については、ノートの取り方を学べたことは大きかったですね。また「ノート取り」と「聞き取り」とのバランス、訳出時のデリバリー(「えー」「あー」といった耳障りなfiller語を減らすなど、クライアントに聞きやすく訳出する等)についても、授業のなかで厳しく指導されました。こういったことは、今の仕事でとても生かされていると感じています。

同時通訳については、ご存知のとおり「聞きながら話す」というアクロバティックな(!)行為ですが、そのスキルを実践的に学ぶことができました。また、文を短く切って訳出する先入れ先出し法(First In First Out;FIFO)法――過剰な使用は聞きづらい――の適切な使用法や、話すスピードが速い話者を攻略する術も教わりました。

上記に加え、ノン・ネイティヴ・スピーカーの「訛り」対策や、授業にゲストを呼んでの実戦形式での練習、また1、2年生合同でのデポ(デポジション;証言録取)通訳の模擬演習なども、総合的には今の仕事に役立っていると思います。加えて、通訳者としての倫理、マナーを学ぶ授業もありましたが、そのなかで「プロの通訳者とは何者か」「プロの通訳者としてどう振舞うべきか」を現場に出る前に考える機会があったのも有難かったですね。

またMIISの2年次では、CIとTIの学生が参加資格を有する「プラクティカム」と呼ばれる通訳演習の授業があり、そこでは他言語学科(中国語・ロシア語・ドイツ語・フランス語・韓国語・スペイン語)の学生と共同で、リレー通訳(例:中国語→英語→日本語)などを経験することができました。ちなみに、プラクティカムを通じて、日本語学科以外の友人ができたことは、一生の財産となっています。今の仕事では出張で国内外に出掛けることも多いのですが、出張先にMIISの友人がいる場合は必ずコンタクトを取り、旧交を温めるようにしているんですよ。

―MIIS の学生生活のなかで、一番思い出に残っていることを教えてください。

このインタビューに登場する皆さんが口を揃えておっしゃるように、やはりクラスメートとの練習でしょうか。授BeachHSR業の時間は限られていますので、やはり学生時代に力を伸ばすためには授業外でのクラスメートとの練習が上達の鍵となります。「サムソン」と呼ばれる食堂は学生の溜まり場にもなっており、どの学科の学生も集まって勉強しているのですが、やはり一番遅くまで残っているのは通翻訳を勉強している学生ではないでしょうか。多分に漏れず、私も夜遅くまでサムソンに残ってクラスメートと練習していました。ちなみに、学期中は授業と練習に追われ、観光地として有名なモントレーを観光する時間はほぼゼロでした。卒業試験が終わったあと、ようやく観光を始めたくらいでした(笑)。

―入学希望者の方たちに、特にアドバイスがあればお願いします。

通翻訳者になりたいと真剣に望まれているのであれば、ぜひMIISの門を叩いてみてください。業界でもMIIS卒業生の評判は非常に高いものですし、MIISを通じてクラスメートのみならず、他言語学科の学生、先輩・後輩たちとのネットワークを築くことができます。また2020年には東京オリンピックが開催されます。それによって通翻訳の需要が高まると考えられているので、今後の成長産業、ということで、キャリア面でもメリットがあると思います。

冒頭でも述べましたが、人生一度きり。“To be or not to be an interpreter/translator”――ハムレット並みに迷っていらっしゃるのであれば、思い切ってMIISでチャレンジしてみませんか?

ATA(米国翻訳者協会) 年次会議について

今回は、現在MIISで翻訳を専攻している2年生のワインストック美智代さんにATA(米国翻訳者協会)の年次会議に出席した感想を書いていただきました。

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unnamed今回は初回の参加ということで、名札に「First Time Attendee 」とシールが貼られていたので、長年会員をされているメンバーの方々から、レセプション、セッション、その他のイベントで声をかけていただきました。今はベテランの方々も、かつては未経験の翻訳者や通訳者の卵だった時代を経験しています。そこからいかにして仕事を得て、クライアントを増やし、経験を積んでいったか、一人ひとりそれぞれのストーリーがあり、皆さん喜んで気さくに教えてくださいました。こういったお話が非常におもしろくてためになり、これだけでも会議に来た甲斐があったと思いました。また翻訳エージェンシーの方も何社かいらしていて、名刺交換させていただきました。私は2月に地元モントレーであったMIIS主催のキャリアフェアのために学校のロゴ入りの名刺をたくさん作っておいたので、それがとても役に立ちました。また、MIISの先輩方にもお会いする機会があり、親睦を深めることができました。michiyo3

ATA認定試験対策のワークショップも非常に役に立ちました。採点基準に関して詳しく説明していただいた上で、実際に私が翻訳してみたサンプル問題の訳出に具体的なアドバイスをしていただきました。どうすればもっと良い訳になる、といった内容ではなく、減点になり得る箇所について、なぜ減点になったか、減点されるとすれば何点くらいマイナスになるか、といったことをアドバイスしてくださいました。

MIISの授業で鍛えられていて本当に良かったと思うのは、授業の課題や宿題でも、同じような減点方法でフィードバックをいただることです。まるで毎週認定試験の模擬試験を受けているようなもので、真剣に翻訳に取り組み、フィードバックを素直に受け止めて、自分の翻訳の癖やよくある間違いを軌道修正していくことにより、知らず知らずのうちにスキルが上がっていると確信しています。ATAの評点者の方もおっしゃっていましたが、訳出が一見きれいな日本語でも、原文と意味がずれていたり、過不足や、余計なニュアンスが入っmichiyo4ていると、翻訳としては優れたものではありません。アウトプットに悦に入り原文のメッセージから離れてはいけないのです。忠実で正確でありながら、直訳調にならず自然で読みやすい翻訳をする、非常に重要なことですが、このバランスを会得するのはたやすいことではありません。プロになったとき、翻訳の質が良くなければ仕事がこなくなるだけで、フィードバックをいただける機会もほとんどないと聞きます。批評をいただけるのはとてもありがたいことなのだ、それがATAを通してMIISでの学習について改めて思いを巡らせた感想です。