医療通訳の舞台裏

Filed under: T&I Student Life,翻訳・通訳・ローカリゼーション管理 — Chiyo Benjamin at 11:07 pm on Monday, April 16, 2012

皆さんこんにちは。前回の法廷通訳ワークショップに引き続き、今回は私が3月に参加したカリフォルニア州医療通訳学会についてご紹介したいと思います。

 

私は、カリフォルニア州医療通訳学会 (California Healthcare Interpreting Association, CHIA) に所属していますが、学会発表に参加したのは初めてで、今年の学会はバークレーで行われました。比較的規模の小さい学会で、ブースの参加は医療通訳・翻訳エージェントや医療通訳スケジュール管理ソフト会社など10社くらいでした。発表会場は3つあり、それぞれの部屋でプレゼンテーションやワークショップが行われ、参加している通訳者が各自自分の興味のある会場に行って話を聞きました。この点は他の学術分野の学会と全く同じでした。

この学会に参加するまで、医療分野の翻訳経験は多少あったものの、医療通訳者が現場で実際どのような仕事をしているのかについては想像の域を出ませんでした。2月の就職フェアのときにスタンフォード大学付属病院の通訳チームによる発表を聞いたことがあるくらいだったので、現役の通訳者たちの体験談や、政府の資格試験について、またフリーランス通訳としてスケジュール管理の工夫、通訳能力を高めるためにどのような努力をしているかなど、医療通訳という仕事を身近に感じることのできる学会でした。

 

医療通訳は、患者の次の受診が決まった時点で手配される場合の他、救急救命室に運ばれてきた患者の通訳を依頼されるなど、緊急性の高い状況も発生します。この学会で面白いと思ったのは、そのような緊急性を要する医療通訳手配の性質上、病院側と通訳側、また間にエージェントが入る場合にどのように正確かつ効率的にスケジュールを組むか、ということが一つの共通課題になっていることでした。病院のデータベースと連携して、患者の予約が入るとオンタイムで通訳者に依頼の連絡が入るシステムを紹介する発表が複数あり、意外な感じがしたと共に、それが誰にとっても切実な課題であることを実感しました。

 

スタンフォード大学付属病院ではスペイン語通訳チームは24時間体制で常時病院内に待機しているそうで、医師や看護師と共に、患者のニーズに対応しているそうです。患者さんにとってはどれほど心強いかわかりませんね。しかしそのせいか、通訳者は患者さんから医学的なアドバイスを求められることも多いらしく、そういう場合に素人アドバイスは絶対にしないこと「専門家ではないので私にはわかりません。でも担当医に聞きたいことがあったら、何でも通訳します。」と答えるのが大切だということでした。

医療通訳は患者に同伴して手術室に入ることもあり、血液や薬品の匂いや、うめき声などが苦手な人にはつらいこと、痛みや麻酔のため罵る人が多いこと、そして何をどこまで通訳するかについてもテーマになっていました。スペイン語は世界で少なくとも21カ国で話されており、英語では一つの同じ言葉でも、患者の出身国によって全く異なるスペイン語表現があることが多く、しばしば誤解・誤訳の原因になるそうです。地球上に日本語圏がとあと20カ国もあったらどんな違った表現があるのだろう、と思うと不思議な感じがしますね。性器や性病などに関する用語も、文化によっては通訳者(特に女性の場合)が恥ずかしがってきちんと訳さないために、医師と患者のコミュニケーションに問題が生じる場合もあるようでした。

 

カリフォルニア州ではスペイン語、中国語、ロシア語、ベトナム語等のニーズが高いようで、実際スタンフォード大学でも日本語通訳のニーズは低いらしく、過去の日本語インターンもあまり通訳の練習にはならなかったそうです。私も夏のインターンシップに応募しましたが「せっかく来てもらってもおそらく日本語通訳の練習をする機会は殆どないから」、「日本語枠よりも中国語枠の競争率の方がかなり高かったから」という理由で去年までは日本語1枠、中国語2枠だったのが、今年は3枠全て中国語に回されてしまいました。現場のニーズがない、という理由でこのまま日本語のインターンシップがなくなってしまわないことを心から願うばかりです。

 

いずれにしても医療通訳の仕事は専門性が高いので、これからますます勉強し専門知識を強化すると共に、モントレー卒業までに資格試験を受けようと思っています。



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