モントレーでの一年を振り返る

今回は、期末試験も始まり、もうすぐ二年生ということで、一年を振り返る回にしたいと思います。また、これから一年生がMIISに入学されるということもあり、事前にモントレーで何が出来るのか、お話しすることにします。   まずは勉強面。一学期目は様々なトピックに関して翻訳や通訳の練習をし、手広く浅く、翻訳とは何か、通訳とは何かを学ぶ、習うより慣れる日々でした。カバーした分野は観光、レシピ、政治、文化、経済などなど。僕は他にもTLM(翻訳ローカライゼーションマネージメント)のクラスを二つ(翻訳支援ツールとローカライゼーションマネージメントの授業)選択科目として取りました。元々はCI(会議通訳)の修士を考えていたので、これらの授業は必修ではなかったのですが、とても興味のあるトピックでしたので、履修しました。TLMの授業の良いところは、他の言語を学んでいる学生と一緒に授業を履修できることです。他の言語の通訳や翻訳のビジネス環境などを知る良い機会でもあるので、オススメです。また、将来授業で知り合った学生から仕事をいただくこともあるかもしれません。TLMの学生は翻訳マネジメントを学んでいるので、将来のクライアント候補なのです。   二学期目は翻訳と通訳のコースを全て履修すると、それだけで16単位に達してしまいます。僕もTLMの授業は一つも取れませんでした。また、二学期目は経済や金融関係にフォーカスした授業構成となるため、最近の出来事などの背景知識が大事になってきます。普段からニュースを読み聞きしている必要があります。池上彰さんの本や、柴田真一さんの『図解式金融英語の基礎知識』などを読んでおくと良いと思います。僕は週刊誌や本など比較的よく書けているものを写経すると表現力の向上に役立つと言われたので、数分だけでも日々ニューズウィークなどの文章を書き写すようにしています。   生活面の話もしたいと思います。とても苦労したのは、家探しです。僕は最終的にはルームメイトを見つけてふたり暮らしをしています。それも、3日で家は見つかるだろうと思って泊まっていたホステルから出ていかなくてはならない日にフェイスブックを通して出会ったルームメイトと住んでいます。ひとりで部屋を探すよりも気の合う友だちをまず探したほうが良いかもしれません。たとえ好条件の物件を見つけたとしても、ルームメイトと上手くいかないと生活は大変です。僕とルームメイトはお互い日本人で家のものは共通口座で買っています。まずは、先輩を見つけて部屋の空きがないかを聞くなどすると良いかもしれません。きっと親身になって助けてくれるでしょう。   あとは、健康管理ですね。日本食が食べたい場合は車を持っている人に頼んでサンノゼのミツワに連れて行ってもらうと良いでしょう。ミツワは日本の食品が買えるスーパーです。ジムやスポーツ施設は日本よりずっと安く、豊富なので、心配ありません。モントレーペニンシュラカレッジでは無料でジムやテニスコート等が一般に開放されています。テニスラケットも日本の半額程度で手に入ります。学校には卓球台もありますし、ズンバなども無料で出来ます。   これから二年生になる僕たちは新入生が入学されるのを楽しみにしていますし、内心自分たちが先輩でいいのだろうかなどと心配したりしています。一緒に切磋琢磨出来ればと思います。 先輩方とも同級生ともしばらくお別れです。皆さんが実り多き夏を過ごされることを心より祈っています。 「待てといふにとまらぬものと知りながらしひてぞ惜しき春の別れは」 読人しらず

デポジション通訳

Filed under: MIISについて,T&I Student Life,翻訳・通訳・ローカリゼーション管理 — Celine Browning at 9:06 pm on Sunday, April 28, 2013

今回は先週の土曜日に行われた2年生のデポジション(証言録取)通訳の授業についてお話しします。 デポジションとは、裁判に備えて法廷外で証人が宣誓して行なう証言の録取です。このような場では通訳の正確さと厳密さが特に問われます。日本語学科では、ほぼ毎年デポジション通訳の授業が行われています。今年は両学年とも人数が少ないことから、1年生が証人や弁護士の台詞を読む機会を頂きました。2年生は通訳者とチェッカーの役割を担当しました。以前このブログでもご紹介した武田珂代子先生の東京裁判の通訳で説明されたチェッカーの重要性も改めて認識しました。 2年生の期末試験およびプロフェッショナル試験を目前に控えたこの授業に参加するのは、私たち1年生にとってとても良い経験になりました。先輩方にとってはMIISでの勉強の締めのようなもので、間近で先輩方の通訳、ノートテーキング、チェック等を見ることができたのはとても勉強になりました。聞いていて問題が無かったと思う訳も、先生のコメントによるとヌケや付け足しがあるなど、気がつかなかった点が多数指摘されていました。このようなデポジションの場では、本当に一語一句正確に訳しなければいけない事の大切さを痛感しました。 先輩方が逐次も同時通訳も本当に立派にこなせているのを見ると来年の新入生に同じ姿を見せられるかが少し気になります…

TEDxMontereyでの日本語通訳

Filed under: MIISについて,T&I Student Life,翻訳・通訳・ローカリゼーション管理 — Satoko Kanamori at 10:20 pm on Monday, April 22, 2013

2013年4月13日にモントレー国際大学院の講堂で、TEDxMontereyというイベントが開かれました。TEDというのは日本でもお馴染みの講演会で、様々な分野(学術、テクノロジー、デザイン、エンターテイメントなど)についてプレゼンターが面白いアイディアや発見を説明してくれるイベントです。TEDxのxは、独自に企画されたという意味で、TED本体に似たような経験ができる場として各地で広まりました。   TEDxMontereyは、入場券を買って生で聴くこともできるのですが、当日、私はイベントのライブストリーミングで日本語の通訳を聴くことにしました。今回は、2年生のマット・コルピッツさんと森千代さんが同時通訳を担当しました。まず気づいたのが、通訳だけを聴く機会がこれまで少なかったということです。授業中は自分自身が通訳をしているので、必ず原文も聴いています。クラスメートの通訳だけを聴く場合もありますが、原文を考えずに通訳だけに集中するというのは、難しいものです。しかし、今回のTEDxでは、オリジナルのプレゼンは聞かずに通訳だけを聴くことにしました。2年生のお二人は、とても上手な通訳をしていました。文章構成もきれいで、プレゼンの中に出てくる専門用語も確実に押さえていました。オリジナルのプレゼンを聴かない分、通訳に頼り、通訳の重要性を改めて考えさせてくれる機会にもなりました。   TEDxMontereyは日本語だけではなく、中国語、韓国語、スペイン語、ドイツ語、フランス語の学生が同時通訳をしました。また、プレゼンのトピックも様々で、日本語通訳のお二人がカバーしたものは、種子銀行の写真撮影、アイデンティティ、アフリカの水問題、小魚や絵本の紹介でした。様々なトピックを取り上げるため準備も大変だと思いますが、準備の大切さも改めて痛感しました。来年はこのようなイベントで通訳ができるように励みたいと思います。

通訳クラスとの合同プレゼンテーション

Filed under: MIISについて,翻訳・通訳・ローカリゼーション管理 — Kentaro Tamai at 11:50 pm on Wednesday, April 10, 2013

皆さん、こんにちは。国際経営学(MBA)専攻の玉井です。今回はモントレー国際大学院の特徴的な授業の様子についてお話していきたいと思います。 MIISのMBAプログラムには、会計学、経済学、統計学のようなビジネス系の必修クラスの他に、外国語のクラスもプログラムに含まれています。通訳・翻訳や英語教授法を専攻していない学生は「English for Academic and Professional Purposes」という英語の授業を取ることが基本になっており、現在の受講生においては主に日本、中国、エジプト、サウジアラビアなど英語圏以外の学生がいます。この授業では英語論文の書き方やプレゼンテーションの仕方などを学ぶことができ、私のような英語圏の大学出身でなかったり英語をメジャーとしていなかった学生にはとても有意義なクラスとなっています。 私が今学期受けている英語の授業は「Intercultural Competence in the US and English Skills Development」といい、文化、人種、宗教、言語など異なる背景から生ずる問題について学ぶことを目的としています。先日4月5日、この授業においてプレゼンテーションセッションがありました。パネリスト6人がそれぞれのテーマに添ったプレゼンテーションを行い、その後パネルディスカッションや質疑応答が行われました。 今回のプレゼンテーションのテーマは「American Dream」だったのですが、 各々の発表内容としては、「メディアが与えるアメリカンドリームへの影響」「アフガニスタン移民としてのアメリカンドリーム」「アメリカと中国の成功に対する考え方の比較」「日本の英語教育に対する考察」などでした。プレゼンターの出身国も様々だったため、アメリカンドリームというテーマ一つでも異なる考え方やプレゼンテーションの手法を学ぶことができました。 このプレゼンテーションセッションのユニークな点としては、通訳クラスと合同で行ったということが挙げられます。MIISには会議通訳コースがあり、このようなクラスでは通訳クラスの生徒が同時通訳を行なってくれることがあります。今回のセッションではフランス語通訳クラスと合同で行い、6人のプレゼンターのうち3人が英語、3人がフランス語で発表を行いました。フランス語話者でない参加者はトランシーバーのような機械を装着し、会議場の後方にある専用ブースから同時通訳された英語を聞くことができました。 私自身は発表せず観客として参加したのですが、プレゼンターの内容や発表方法をメモしたり質疑応答時に質問をするなど、この貴重な機会を活用することができました。このようなプログラムを越えた合同スタイルの授業は、MIISの卒業生が国際ビジネスの世界や国連、国際機関のような環境で活躍していく上で、視野を広げる効果的なカリキュラムであると感じました。 4月も中旬に差し掛かり、1年目のプログラムもあと少しとなってきましたが、授業や日々の生活から留学生活を充実させたものにして行きたいと思います。

2013年 キャリアフェア

Filed under: MIISについて,Professional Development,翻訳・通訳・ローカリゼーション管理 — Satoko Kanamori at 11:51 pm on Wednesday, March 20, 2013

2013年3月8日にモントレー国際大学院でキャリアフェアが行なわれました。大学院の近くにあるポルトラホテルの会議場で開かれ、100社の企業・国際機関等が参加しました。CIAからeBay、多くの翻訳会社などがブースを設置し、お話を伺う機会が与えられました。キャリアフェアの2週間ほど前から、学校でこのイベントのためのセミナーが多くあり、履歴書・面接対策セミナーなどに参加することができます。セミナーでは、就職アドバイザーからどの企業に回ればいいかなどの助言を得たり、他の生徒と面接の練習をしたりと内容は様々です。 キャリアフェア当日は、スーツ姿の生徒が履歴書を片手にぞろぞろとホテルに向かいます。アメリカは日本と比べると堅苦しくない部分が多いとは言え、日本語翻訳・通訳科の生徒の場合、アメリカに拠点のある日本企業の人と会うことが多いので、日本式の就職活動にも似ているところはあります。 1年生は、インターンシップに申し込む時期なので、キャリアフェアの週に開かれる企業のプレゼンテーションに参加します。キャリアフェア当日は、自分の決めた企業のブースを回り、履歴書・名刺を渡して自己紹介し、仕事内容などの説明を受け、質問などをします。その場で企業側が翌日に面接をしたいと希望することもあります。2年生も同じようなことをするのですが、インターンシップよりも主に卒業後の就職活動をする機会として活用します。 日本語翻訳・通訳科のインターンシップ・就職先は翻訳会社を除くとそこまで多くはないのですが、今回は、5つの企業が積極的に日本語プログラムの生徒をリクルートしていました。特許や自動車からゴルフまでと仕事内容も様々ですし、インターシップの場合は、夏休み中に翻訳か通訳、どちらを集中してやりたいのかを決めなくてはいけません。 また、キャリアフェアにおいて重要なのが、下調べです。どの企業がどのような生徒を採用したいのかを調べ、それが自分、そして自分のやりたいことと一致しているのかを見極めるのは、非常に大切です。様々な企業が参加するため、キャリアフェアはモントレー国際大学院が企画する極めて有意義なイベントの一つです。

東京裁判に関する講演の逐次通訳

Filed under: Professional Development,T&I Student Life,翻訳・通訳・ローカリゼーション管理 — Shinichiro Tanaka at 9:32 pm on Sunday, February 24, 2013

先週の予告通り、今回のブログは講演の逐次通訳について書きたいと思います。 2月22日、武田珂代子先生による東京裁判に関する講演の逐次通訳を同級生と担当させていただきました。内容は武田先生のご著書『東京裁判における通訳』に沿ったもので、中でも通訳の三層構造にフォーカスが当てられました。ご著書自体が非常に面白かったので、内容を楽しみながら準備をすることができました。東京裁判では、日本人、日系人、白人といった異なるグループの人々が、通訳、通訳を監視するモニター、言語の専門家全体を統括する言語裁定官として、通訳作業をそれぞれ担当していました。これには社会的、文化的背景が絡んでおり、敗戦国の日本人に頼ることを避けるため、アメリカ国民の白人が、たとえ日本語がおぼつかなくても言語裁定官として居なくてはならなかったといった点など、非常に興味深い話が書かれていますので、通訳を目指している方や、東京裁判についてご興味のある方は、ぜひ武田先生のご著書をお読みください。 今回は事前にパワーポイント資料をいただくこともでき、十分に準備することができたので、当日はそれなりにスムーズに通訳をさせていただくことができました。いただいたフィードバックは好意的で、大変嬉しく思いましたが、一年生なので少し手加減していただいたのかなと思います。それでも、個人的にはとりあえず出来るだけのことはしたと手応えを感じています。ご著書も何度も日本語と英語で読みましたし、東京裁判に関する動画などを見たりもしました。パワーポイント資料のサイトラも何回かして、自分だけでもプレゼンできるようにしました。やってみてわかったことは、他の授業の予習や復習ももっとやれることがあるはずだという点です。ただ、健康などを害してしまうと元も子もないので、程よいバランスを見出していきたいです。 今日は先生方並びに先輩方がいらっしゃっていたため、通訳を判断していただくという点では、素晴らしいオーディエンスの方々に恵まれました。一応大学時代も人前で通訳する機会はあったので、緊張しすぎることはなかったのですが、人に伝えるという意識をしっかり持つ余裕がもう少しあればよかったなと思います。観客を見るということや、落ち着いてフィラーなどをなくすということに意識を向けることができたらと思います。しかし、普段小さなクラスで通訳をするのと比べ、より大きなオーディエンスに向けて話す場合は視線のあり方や声の張り方などが違うということを改めて実感できたのは良かったです。クラス内の仲間内で練習するだけですと、何のために通訳をするのかという意識がでてこないので、こういう機会があるというのは素晴らしいことだと思います。 今回の企画を可能にしてくださった武田先生ならびにMIISの先生方、先輩方、同級生に改めて感謝の意を述べたいと思います。みなさま、本当にありがとうございました。 ちなみに、講演の当日、MIISの図書館で行われているブックセールが全品無料になりました。通訳者、翻訳者の勉強は永遠に終わりません。これだけ本が手に入ると嬉しいですね。

英語のグローバル化と翻訳

Filed under: 翻訳・通訳・ローカリゼーション管理 — Lexi Whitmore at 10:47 am on Monday, December 3, 2012

翻訳のオーディエンスがターゲット言語のネイティブスピーカーだという思い込みは多くの人が持っているといえます。MIISに入学する前、自分自身もそう思っていました。私はアメリカ生まれで英語のネイティブですが、以前、日英翻訳の仕事をしたときは、アメリカ人が読むだろうと考えながら訳しました。しかし、MIISの先生方やベテラン翻訳者のお話を伺い、今の時代、日英翻訳は必ずしも英語ネイティブだけを対象にしているわけではなく、世界中の英語話者を対象にする場合もあると分かりました。つまり、英語のグローバル化が翻訳に影響を及ぼす時代が来たということです。このグローバル化について、ちょっと考察したいと思います。 現在、英語はアメリカ、イギリス、オーストラリアなど以外にも、ほかの国々で使われていますが、実際に英語話者は何人ぐらいいるのでしょうか。スウェーデンのNationalencyklopedinが2010年に行った調査によりますと、英語ネイティブは3.6億人、英語を第二言語として習得したのは3.75億人、外国語として習得したのは7.5億人です。すべてを足せば約15億人になり、世界中の人々の6分の1以上が英語話者だということになります。要するに、英語は既にリンガ・フランカになったのです。これが翻訳にどのような影響を及ぼすかというと、ネイティブとネイティブではない英語話者、両方が理解できるような訳を提供しなければいけない依頼がこれから増加するでしょう。 実際にそうなれば、いくつか問題が起きるかもしれません。まず、このような依頼を受けたとき、抵抗を感じる英語ネイティブもいるのではないかと思います。日英翻訳者になる人は、ある程度自分の母語、あるいは第二言語に愛着を持っていることが多いでしょう。したがって訳文をわかりやすくするために、時々表現力の豊かさと正しさを犠牲にせざるを得ないことは好ましくない、と思うかもしれません。その一方、翻訳者の任務は簡単に言えばソース言語がわからない人にターゲット言語でメッセージを伝えることですので、翻訳を利用する人が理解できなければ、翻訳者の努力が無意味になり、クライアントは満足しないという考え方もあります。どんな意見を持っていても、英語のグローバル化はこれからますます進むかもしれませんので、日英翻訳者の仕事にどのような変化をもたらすか、引き続き見ていく必要があるでしょう。

医療通訳の舞台裏

Filed under: T&I Student Life,翻訳・通訳・ローカリゼーション管理 — Chiyo Benjamin at 11:07 pm on Monday, April 16, 2012

皆さんこんにちは。前回の法廷通訳ワークショップに引き続き、今回は私が3月に参加したカリフォルニア州医療通訳学会についてご紹介したいと思います。   私は、カリフォルニア州医療通訳学会 (California Healthcare Interpreting Association, CHIA) に所属していますが、学会発表に参加したのは初めてで、今年の学会はバークレーで行われました。比較的規模の小さい学会で、ブースの参加は医療通訳・翻訳エージェントや医療通訳スケジュール管理ソフト会社など10社くらいでした。発表会場は3つあり、それぞれの部屋でプレゼンテーションやワークショップが行われ、参加している通訳者が各自自分の興味のある会場に行って話を聞きました。この点は他の学術分野の学会と全く同じでした。 この学会に参加するまで、医療分野の翻訳経験は多少あったものの、医療通訳者が現場で実際どのような仕事をしているのかについては想像の域を出ませんでした。2月の就職フェアのときにスタンフォード大学付属病院の通訳チームによる発表を聞いたことがあるくらいだったので、現役の通訳者たちの体験談や、政府の資格試験について、またフリーランス通訳としてスケジュール管理の工夫、通訳能力を高めるためにどのような努力をしているかなど、医療通訳という仕事を身近に感じることのできる学会でした。   医療通訳は、患者の次の受診が決まった時点で手配される場合の他、救急救命室に運ばれてきた患者の通訳を依頼されるなど、緊急性の高い状況も発生します。この学会で面白いと思ったのは、そのような緊急性を要する医療通訳手配の性質上、病院側と通訳側、また間にエージェントが入る場合にどのように正確かつ効率的にスケジュールを組むか、ということが一つの共通課題になっていることでした。病院のデータベースと連携して、患者の予約が入るとオンタイムで通訳者に依頼の連絡が入るシステムを紹介する発表が複数あり、意外な感じがしたと共に、それが誰にとっても切実な課題であることを実感しました。   スタンフォード大学付属病院ではスペイン語通訳チームは24時間体制で常時病院内に待機しているそうで、医師や看護師と共に、患者のニーズに対応しているそうです。患者さんにとってはどれほど心強いかわかりませんね。しかしそのせいか、通訳者は患者さんから医学的なアドバイスを求められることも多いらしく、そういう場合に素人アドバイスは絶対にしないこと「専門家ではないので私にはわかりません。でも担当医に聞きたいことがあったら、何でも通訳します。」と答えるのが大切だということでした。 医療通訳は患者に同伴して手術室に入ることもあり、血液や薬品の匂いや、うめき声などが苦手な人にはつらいこと、痛みや麻酔のため罵る人が多いこと、そして何をどこまで通訳するかについてもテーマになっていました。スペイン語は世界で少なくとも21カ国で話されており、英語では一つの同じ言葉でも、患者の出身国によって全く異なるスペイン語表現があることが多く、しばしば誤解・誤訳の原因になるそうです。地球上に日本語圏がとあと20カ国もあったらどんな違った表現があるのだろう、と思うと不思議な感じがしますね。性器や性病などに関する用語も、文化によっては通訳者(特に女性の場合)が恥ずかしがってきちんと訳さないために、医師と患者のコミュニケーションに問題が生じる場合もあるようでした。   カリフォルニア州ではスペイン語、中国語、ロシア語、ベトナム語等のニーズが高いようで、実際スタンフォード大学でも日本語通訳のニーズは低いらしく、過去の日本語インターンもあまり通訳の練習にはならなかったそうです。私も夏のインターンシップに応募しましたが「せっかく来てもらってもおそらく日本語通訳の練習をする機会は殆どないから」、「日本語枠よりも中国語枠の競争率の方がかなり高かったから」という理由で去年までは日本語1枠、中国語2枠だったのが、今年は3枠全て中国語に回されてしまいました。現場のニーズがない、という理由でこのまま日本語のインターンシップがなくなってしまわないことを心から願うばかりです。   いずれにしても医療通訳の仕事は専門性が高いので、これからますます勉強し専門知識を強化すると共に、モントレー卒業までに資格試験を受けようと思っています。

Summer Internship

Filed under: MIISについて,T&I Student Life,翻訳・通訳・ローカリゼーション管理 — Keitaro Morita at 10:55 pm on Monday, April 2, 2012

インターンシップ――1年生と2年生の間にある約3カ月の夏休みはこれに始まりこれに終わると言われます。1年次に身に付けた通訳・翻訳のスキルを実際の職場環境で試し、同時にそれを通じてさらにスキルを伸ばせる、という弁証法的な機会になっています。 モントレー国際大学院(MIIS)へ進学をお考えの皆さんは学業のみならずインターンシップにも興味をお持ちだと側聞しています。ですので、今回のブログではこのインターンシップについて書いてみたいと思います。 と言ったものの、森田はAdvanced Entryという制度を使って2年次から学業を始めたため夏休みのインターンシップを経験していません。そこで実際にインターンシップを経験した敬愛するクラスメート・津崎由佳子さんにお願いをし、インターンシップの現場についてインタビュー形式で答えてもらいました。以下、その一問一答です。 ―本日は貴重なお時間をありがとうございます。2011年の夏休みにスタンフォード大学病院でインターンシップをされたそうですが、まずはなぜインターンシップをしようと思ったのか教えていただけますか。 「アメリカで一定期間にわたって働いた経験がなかったので、卒業後にプロの通訳者・翻訳者として仕事をしていく際の第一歩になればと思って応募しました。またアメリカの職場においてコミュニケーションがどのように行われているのかは学校では学ぶことができません。現場を知る、という意味でも応募しました。同時に、英語力にさらに磨きをかけたいというのも理由の1つでした。」 ―なるほど。ではなぜスタンフォード大学病院を選んだのでしょうか。 「1つ目の理由は通訳のインターンシップができるためです。翻訳のインターンシップとは異なり、現状では通訳のインターンシップの数は限られています。2つ目の理由は国境なき医師団に関わっていたこともあって医療の現場に興味を持っていたからです。そして3つ目の理由は卒業された先輩から勧められたためです。」 ―選考過程について教えてください。 「2月中旬に履歴書、志望動機書、推薦状の3点を提出しました。2月末のMIISのキャリアフェアには毎年スタンフォード大学病院も参加していますが、その日の夕方に説明会があり、翌日に面接を受けました。その後、数週間で合格のお返事をいただきました。」 ―では同病院のインターンシップの制度の詳細を教えていただけますか。 「スタンフォード大学病院のインターンシップは4本の柱で成り立っています。全体オリエンテーションを受けた後、①シャドーイング ②通訳 ③翻訳 ④自主研究 に取り組みます。①のシャドーイングとは、通訳の練習方法としてのシャドーイング(テキストを見ずに流れてくる音声を聞きながら影のように後についてその音声を声に出す)のことではなく、〈影のように他の通訳者について回る〉ことを指します。他の通訳者に同行することで様々な現場を体験することができます。これは②の通訳の段階に入る前の事前準備としても行われます。②の通訳については、まず〈1人立ち〉する前に経験者による指導が行われます。通訳経験が豊富なスタッフがインターン生に同行し、通訳の進め方を医師にどのように説明するのか、患者が肌をさらす場面で通訳者はどのように振る舞うのか、などを教授します。また必要な場合にはフィードバックや修正が入ったりします。その後に〈1人立ち〉して通訳業務を行うことになります。③の翻訳についても実際に翻訳を行い、それに対して経験者からのチェックが入ります。④の自主研究は、その日や翌日の業務に関連した事項を大学図書館などを利用して自主的に学習することを指します。単語力や背景知識の強化が目的です。」 ―インターンシップはどのような感じでしたか。 「インターンシップを修了するためには22日間で192時間の業務をこなす必要があります。インターンシップでは給与と食事クーポンが支給されます。実際に日本人の患者さんを通訳する機会は2~3回程度でしたが、授業とは全く異なる現場において初めて通訳を体験することで自分のスキルが役立つことを実感し、やりがいを感じると同時に自信をつけることもできました。病院という特殊な場所の実情を知り、限られた時間の中での効率的な仕事の進め方を学び、加えて医療や製薬という通訳ニーズの高い分野の知識を得ることで将来に役立つスキルを獲得することができました。さらには人間として成長する機会にもなったと思います。」 ―では最後に後輩の皆さんにスタンフォード大学病院のインターンシップを勧めて(笑)ください。 「絶対にお勧めです。通訳経験がそれほど積めない、という理由で敬遠する学生もいると聞きます。しかし上述のような事柄を体験できるのみならず、MIISの卒業生が多く勤務しているのでネットワークづくりにもなりますし、MIISを卒業すればプロとしてあれだけの仕事ができるんだ、と実感することにもつながります。私自身も大変刺激を受け『もっと勉強しなくては』という気にさせられました。通訳の最中にクライアントの反応を直に目にすることができることも醍醐味です。さらには英語ネイティブではないインターン生にとっては英語力をさらに高める機会にもなります。目先のことを考えるのではなく、キャリアという大きな視点からみれば得るものは大きい、と言い切ることができます。」 ―ありがとうございました。 ところでその津崎さんからお知らせがあります。前回の森田のブログでも言及したTEDxが4月13日(金)9:00~16:00[注:カリフォルニア時間(太平洋標準時)]にMIISのあるモントレーにやってきます(http://www.tedxmonterey.org/about/)。テーマは“Sea Change”。このテーマをめぐって海と深い繋がりを持つ多様なプレゼンターたち(http://www.tedxmonterey.org/presenters/)がスピーチを行います。ウェブサイトには次のようにあります。 “TEDxMonterey ‘Sea Change’ will explore our diverse human connections with the land and the sea in order to inspire innovative conservation measures, dynamic discussions, and heightened awareness.” (TEDxモントレーのテーマは「海変」。革新性のある保全策や活発な議論、意識の高揚を目指し、人間と陸・海との多様な関係性を模索します。[森田試訳]) 津崎さんはこのTEDxMontereyの通訳責任者を務められています(http://www.tedxmonterey.org/the-sea-change-team/;下の方に津崎さんの写真あり)。そして津崎さんを中心に日本語プログラム・会議通訳専攻の学生4人(森田もその1人)がセッション2、セッション3で通訳を行うことになりました。そしてその通訳はインターネットを通じて世界中に配信されます(http://www.tedxmonterey.org/livestream/;通訳を聞くには一番下までスクロールダウン)。時間は現地時間でセッション2が13:00~14:30、セッション3が15:00~16:30の予定です(尚、時間が変更になる場合がありますのでお聞きになる前に再度ウェブサイトをご確認ください)。 最後に津崎さんからのメッセージです。「時差などで難しい方もいらっしゃるかも知れませんが、ぜひ私たちの通訳を聞いていただければ幸いです。」

法廷通訳への道

Filed under: T&I Student Life,翻訳・通訳・ローカリゼーション管理 — Chiyo Benjamin at 10:42 am on Tuesday, March 27, 2012

皆さんこんにちは。今回はホノルル市内のハワイ州最高裁判所で行われた、法廷通訳のワークショップについてご紹介したいと思います。これはハワイ州内8島にある裁判所で法廷通訳をする通訳者が全員参加義務のあるワークショップで、一年に一度だけ3月に開講されます。朝7時半集合で、夕方の5時まで裁判所内の一室に缶詰で行われ、ハワイ州の裁判所システムの仕組みから、法廷通訳の就業倫理、責任、役割等について学びます。その後通訳について背景知識のない人にために、同時通訳、逐次通訳、サイトトランスレーションについての説明と、言語ごとのグループに分かれてロールプレイも行われました。ロールプレイでは裁判中に起こりうる様々な状況にプロとしてどのように対処すべきかを練習し、フィードバックをもらいました。 参加者の言語は、スペイン語、中国語、ベトナム語、日本語、ロシア語、ドイツ語、タガログ語、イロカノ語の他、マーシャル語やチューク語の話者もいました。インストラクターはハワイ大学の翻訳・通訳センターで法廷通訳のクラスを教えている教授、カピオラニカレッジで手話 (American Sign Language) の法廷通訳と医療通訳のクラスを指導している先生、そして州裁判所で実際に通訳コーディネーターをしている方の3人でした。 ここでいう法廷通訳とは、英語を母語としない被告の人権と知る権利を守るために州裁判所に雇われる通訳者のことです。法廷通訳が他の通訳と違うのは、話者のフィラー(well, let me see, um…など)、感情やトーンを、可能な限り全て忠実に再現する点だそうです。例えば被告が証言台に立って発言するときに、記憶が曖昧など様々な理由で迷いながら発言したり、内容を変えて言い直したりしたものは、全て通訳で再現して、法廷の公式な記録に残す必要があるからです。ただ、被告の感情につられて泣いたり怒ったり、大げさなジェスチャーを繰り返す必要はありません。今学期、同時通訳のクラスでスピーカのフィラーや無駄な繰り返しを省いてまとめ、聞きやすい訳を出すということを習いましたが、法廷通訳では通訳者が訳した言葉の文字通り「全て」が被告の証言として記録に残るため、通訳者は言葉こそ違うものの、話者になりきってなるべく忠実に発言を再現するという作業をしなければならないのです。通訳者は被告の発言の内容はもちろん、感情を声のトーンで表現する他、法廷で使われる様々なレジスターも勝手に変更することはできません。被告の罵り言葉も、判事の読み上げる判決文も、話者による原文のレジスターを正確に反映して通訳することが重要だそうです。通訳中は被告、判事、弁護士、証人の言葉を再現する者として全てFirst person “I”で訳しますが、通訳者が自分のアイデンティティーに戻って話をする場合は混乱を避けるため”I”ではなくて、” The interpreter” と言うことで聞き手のため、また公式の記録上も区別する必要があることも学びました。 またこのワークショップでは言語そのもののテクニックだけでなく、プロとして通訳者がすべきこと、避けるべきことも細かく指導されました。通訳中に誰かの声が小さすぎて聞こえないときどうするか、クライアントである被告が「私はどう答えればいいですか?」と頼ってきたらどうするか、どういう状況下で同通と逐次通訳を切り替えるか、陪審員との関わり方、被告と知り合いだった場合どうするか、弁護士や判事に「○○を被告に説明してください」と言われたらどうするか、審議前に過去の裁判記録や資料をどこで入手するか、どのタイミングで検察側に事前に調書に目を通させてもらえるように頼むか、通訳ミスに気がついたときにどうやって審議の流れを中断せずに訂正するか、通訳としてメディアや陪審員からの質問へどう対応するか等々かなり具体的かつ実践的なスキルを学びました。 3人のインストラクターが何度も念を入れていて印象的だったのが、法廷内での携帯電話の使用についてでした。最近携帯電話はオンライン辞書を使うなど様々な目的で使われますが、いかなる目的であっても、携帯を触っているだけで判事、弁護士、Bailiff(廷吏)など法廷内にいる関係者にかなり悪い印象を与えるので、通訳任務についている間は携帯の電源は切り、絶対にかばんから出さない、あるいは始めから法廷にもちこまないように、と言われました。現役の法廷通訳をしているインストラクターは、法廷内で携帯を取り出すだけでも関係者に不快感を与え、プロとしての意識が低いと思われ次回から依頼が来なくなるのを避けるため、法廷には辞書のみを持ち込み、パソコンと携帯は持ち込まないそうです。ちなみに、場所にもよると思いますが、ハワイ州の最高裁判所では法廷の見学をする際も、殆どの場合パソコン、携帯、カメラ、ビデオ、ボイスレコーダーの持ち込み禁止、飲食はもちろん口の中のガムも禁止、居眠りも厳禁だそうです。基本的に持ち込んでいいのはノートとペンだけ、と言っていました。 ハワイ州の法廷通訳になるにはまず米国での労働資格があり、犯罪歴チェックを通過することが必要です。一年に二度行われる筆記試験に合格してから一年に一度の口頭試験を受験し、どちらも合格すると試験の結果によってレベル別に分けされます。ハワイ州の日本語法廷通訳には2ランクありますが、これによって時給が決まります。その後現役の通訳者の仕事を見学し、実際の仕事に望みます。経験が浅いうちは、信用できる通訳者がどうかを確認するため、法廷で学歴や職歴について判事や弁護士に公式に諮問されることもあり、それらの質問にきちんと答え法廷通訳として能力があることを示さなければいけないそうです。ちなみに連邦政府の法廷通訳資格試験は現在スペイン語とナバホ語のみだそうですが、こちらの口頭試験の合格率は8パーセント以下という難関だそうです。 今回のワークショップはかなり情報量が多く大変でしたが、非常に実りの多い素晴らしい学びでした。これから更に気を引き締めてモントレーで修行を積んで行こう、と改めて思いました。とこのワークショップの参加を快く承諾してくださった先生方、本当にありがとうございました。  

Next Page »